◇企業紹介◇
株式会社タム・タムは、1975年創業の総合ホビーショップです。愛媛県出身の安藤治代表取締役が2007年に2代目として事業を引き継ぎ、現在は全国20店舗を展開しています。プラモデル、ラジコン、エアガン、鉄道模型、ミニカーなど多岐にわたるホビー商品を取り扱い、各ジャンルの専門スタッフが在籍する日本唯一の総合ホビーショップとして知られています。今回は、創業50周年を迎える同社の安藤治代表取締役に、学生団体GOATの石嵜がインタビューを行いました。リーマンショック直後の倒産危機からのV字回復、そして「感動体験業」という独自の経営哲学について、詳しくお話を伺いました。

プロ野球選手の夢から経営者へ——「根拠のない自信」が導いた人生の転機
安藤社長のキャリアは、多くの人が想像するものとは大きく異なります。高校卒業後はプロ野球選手を目指し、神戸で社会人野球に4年間打ち込みました。22歳でプロへの道を諦めた後も、すぐにサラリーマンになる道は選びませんでした。
「野球でプロを諦めた時、すぐ自分で何かやってみようということで、健康食品の代理店として独立した経緯もあります」と安藤社長は振り返ります。その後、カイロプラクティックの治療院を開業し、さらに岐阜の会社で営業として10年間勤務するなど、様々な経験を積み重ねてきました。
タムタムとの出会いは、妻の父親が経営していた当時2店舗のホビーショップでした。しかし、安藤社長は当初、何度も手伝いの話を断っていたといいます。独立心が強く、自分の道を切り開きたいという思いがあったからです。
「その当時はお金にも苦労しましたけど、はっきり言えば根拠のない自信だけがあったというところですかね。根拠は正直全くないんですけど、将来は何か行けるんじゃないかという、何にも根拠がないんですけどね」
この「根拠のない自信」こそが、後の経営者としての挑戦を支える原動力となりました。36歳で代表取締役に就任し、現在に至るまで20年間、会社を率いてきた安藤社長の原点がここにあります。
◾ 取材担当:石嵜の感想
安藤社長の「根拠のない自信」という言葉が印象的でした。就活生の私たちは、つい「根拠」や「実績」を求めがちです。しかし、安藤社長のキャリアを聞いて、まず一歩を踏み出す勇気の大切さを感じました。プロ野球選手、独立、営業、そして経営者と、一見バラバラに見えるキャリアが、すべて今の安藤社長を形作っているのだと思います。就活においても、自分の経験を点ではなく線で捉える視点を持ちたいと感じました。

「来月1億円ないと倒産」——リーマンショック直後の代表就任と地獄の3年間
2007年、安藤社長が代表取締役に就任した直後、世界経済を揺るがすリーマンショックが発生しました。拡大路線を走っていた会社は借入れも多く、売上は一気に急降下。文字通り、倒産の危機に直面しました。
「銀行さんとのお付き合いの中で、もうどこも貸してくれないよというような状況だったり、来月1億円ないともう倒産だねというぐらいのところまで来ていました」と安藤社長は当時を振り返ります。
さらに追い打ちをかけるように、出店したばかりの施設のオーナーが民事再生に、間に入っていたデベロッパーも民事再生に。両者から家賃請求が来るという異常事態にも巻き込まれました。
「本当にもう死んじゃうんじゃないかなって、夢と現実が混ざっているような感じでしたね。500円玉ぐらいのハゲが3つぐらいできちゃったんです」
当時、安藤社長には同年代の子供がいました。倒産すれば全てを失う——その不安の中で、V字回復までに3年から4年の歳月を要しました。ビジネスモデルの改善、コスト構造の見直し、そして何より「生き残る」ための必死の努力が続きました。
この経験は、安藤社長の経営哲学を大きく変えることになります。事業拡大一辺倒だった考え方から、「スタッフを大事にしなくてはいけない、スタッフを幸せにしなくてはいけない」という方向へ、大きく舵を切る転換点となったのです。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「500円玉ぐらいのハゲが3つできた」という言葉に、当時のストレスの大きさが伝わってきました。経営者の苦労は想像を超えるものがあると感じました。しかし、この極限状態の中で「足るを知る」という考えに至り、従業員を大切にする経営へシフトしたという話は、逆境が人を成長させるという真実を示していると思います。就活生として、困難な状況でも自分を見失わず、本当に大切なものに気づける人間でありたいと思いました。

「物から事へ」——日本唯一の総合ホビーショップが目指す感動体験業
タムタムが他のホビーショップと決定的に異なる点、それは「総合ホビーショップ」という業態です。プラモデル、ラジコン、エアガン、鉄道模型、ミニカー、フィギュア——一つ一つが専門店レベルの品揃えと知識を持つスタッフで構成されています。
「専門店という意味で言えば、このスタイルは日本で当社だけなんです」と安藤社長は断言します。個人経営の模型店は自分の好きな分野に特化しがちですが、タムタムはすべてのジャンルを網羅しています。
さらに特徴的なのは、「物から事へ」というコンセプトです。商品を販売するだけでなく、その先の体験を提供しています。北海道の店舗では、売り場300坪に対して借りている面積は800坪。その中にはラジコンサーキットが4面、塗装スペース、シューティングレンジ、小さなサバイバルフィールドまで併設されています。
「プラモデルですとか鉄道模型とかエアガンとか、買ってから改造したり塗料を塗ったり、買って飾るだけではない。買ってからがさらに遊び方が色々たくさん存在します」と安藤社長は説明します。
鉄道模型ファンが自宅では走らせられない大きなジオラマを、店舗で時間借りして楽しむ「レンタルレイアウト」というサービスも人気です。神戸にある店舗のラジコンサーキットは、西日本で1番盛り上がっているとのこと。土日は入りきらないほどの客で賑わっています。
「私たちはずっと、ホビー業ではなく感動体験業であるということをスタッフと共有しています。その視点からお客様にどうしたらいいのかということ、まず思考を変えていくというところから始めています」
この「感動体験業」という自己定義が、通販では決して提供できない価値を生み出しています。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「ホビー業ではなく感動体験業」という言葉に、ビジネスの本質を見た気がしました。商品を売ることがゴールではなく、お客様の感動体験をデザインすることが目的——この発想の転換は、どの業界にも応用できる考え方だと思います。私自身、福岡出身で子供の頃にタムタムを訪れたことがあり、あの時のワクワク感を思い出しました。あの体験を意図的に設計していたのだと知り、プロの仕事の奥深さを感じました。

元お客様が社員の40%——独自の人材戦略と日本文化の継承
タムタムの強みの一つは、その独特な人材構成にあります。現在、全従業員230名のうち約100名が正社員。一般的な小売業の正社員比率が10〜15%程度であることを考えると、これは異例の高さです。
「うちは専門職として、お客様サポートをするために正社員比率が高いんです。そして、その社員のうちの40%が元々お客様です」と安藤社長は明かします。
アルバイトから正社員へ、そして新卒採用まで——来年卒業予定の大学生アルバイトが、そのまま新入社員として入社する流れも生まれています。「好き」を仕事にできる環境が、自然と人材を集めているのです。
しかし、安藤社長はホビー業界全体の課題も見据えています。個人経営の模型店が後継者問題や通販との競合で閉店していく中、地方ではホビーに触れる機会そのものが失われつつあります。
「私たちが取り扱っているものは日本の文化だと捉えています。アニメにしろ、その物自体のクオリティにしろ、世界でもズバ抜けています」と安藤社長は力を込めます。
秋葉原店にはインバウンドの海外客が殺到しているといいます。日本のホビー文化の発信地として、タムタムは単なる小売業を超えた存在意義を持っています。
「今の子供たちがこういったホビーを楽しんで、物づくりって楽しいなと感じていただくことが、将来の物づくり日本の技術を生む一つの契機となればいいなと思っています」
ホビーを通じて日本の物づくり精神を次世代に継承する——50周年を迎えるタムタムの挑戦は、これからも続きます。
◾ 取材担当:石嵜の感想
社員の40%が元お客様という事実に驚きました。「好きを仕事に」という言葉をよく聞きますが、それを組織として実現している会社は稀だと思います。また、単なるビジネスではなく「日本文化の継承」という視点を持っていることに感銘を受けました。就活では「やりがい」を求めがちですが、自分の仕事が社会や文化にどう貢献するかという視点も大切だと気づかされました。

学生へのメッセージ——「謙虚に学び、内省する」ことが成長への道
インタビューの最後に、安藤社長は若者へのメッセージを語ってくださいました。
「謙虚に学ぶということがすごく重要じゃないかなと思うんですよね。内省をちゃんとすること、分かりますか?反省と内省の違いってよくあると思うんですけど、いろんな経験をするってすごく重要じゃないですか。ただその単に経験だけで終わらせるのではなく、うまくいったことも失敗したことも含めて内省することで成長というものがありますし、それによって気づきというのがあるんです」
人は気づきがないと成長の一歩を踏めない——安藤社長はそう強調します。自信を持って行動することと、自分の考えや行動を疑うこと。一見矛盾するこの二つを両立させることが、成功への鍵だといいます。
「うまくいって調子に乗って傲慢になると失敗するので、傲慢にならないように常に謙虚に学んでいくということが重要かなと思います」
一方で、安藤社長は今の若い世代の素直さも評価しています。「自分がこの年の時、こんな素直じゃなかったよな」と感じるほど、協調性が高く、素直な若者が多いといいます。ただ、「もうちょっとやんちゃして失敗してもいいんじゃないか」とも。素直であることと、チャレンジすること——その両方を兼ね備えた人材を、安藤社長は求めているのかもしれません。
過去の先人たちの学びに耳を傾け、謙虚に成長し続ける。創業50周年を迎える老舗企業のトップが、今なお学び続けている姿勢に、大きな刺激をいただきました。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「反省」と「内省」の違いという言葉が心に残りました。単に「悪かった」と反省するのではなく、なぜそうなったのか、そこから何を学べるのかを深く考える「内省」の大切さ。就活でも、面接がうまくいかなかった時に落ち込むだけでなく、内省して次に活かすことが重要だと気づきました。また、「素直すぎて失敗してもいいんじゃないか」という言葉は、私たち世代への温かいエールだと感じました。謙虚さを忘れず、でも恐れずにチャレンジしていきたいと思います。