◇企業紹介◇
須田屋株式会社は、1995年に設立されたベーカリー企業です。1993年に1号店をオープンし、現在は千葉県内に4店舗とセントラル工場1拠点を展開しています。「リヨン」ブランドの「のれん分け」として、各店舗で焼きたてのパンを製造・販売。社員約20名、パートスタッフ約120名の体制で、地域に根差したパン屋として33年間営業を続けてきました。今回は、代表取締役の須田孝夫社長に、学生団体GOAT・石崎が取材。小学4年生から抱き続けたパン屋への夢、31歳での独立、そして10店舗まで拡大した後に経験した「膨張と縮小」の苦悩まで、リアルな経営の軌跡をお聞きしました。

「10店舗10億円の会社を作りたい」——夢を実現した先に待っていた「膨張」という現実
創業時に1号店を出店した須田社長には、さらに大きなビジョンがありました。「10店舗、10億円の会社を作りたい」。最初の1店舗は通過点に過ぎないという強い意志を持ち、次々と店舗を増やしていきました。
パン屋としての出店を重ねる一方で、新たな挑戦も始めました。「パン屋と外食の融合店を作りたい」というアイデアから、外食事業にも参入。パン屋6店舗、外食4店舗と、事業は急速に拡大していきました。
しかし、目標としていた10店舗に近づいたとき、須田社長は大きな違和感を覚えました。
「振り返ると、成長して10店舗になったのではなく、ただやりたいという思いだけで10店舗になったのです。自分の中では、その時に『膨張してしまった』というイメージがすごかったのです」
人が育っていない。社内の統一性がない。理念も思いもバラバラ。数字上は目標を達成しながらも、会社の中身は空洞化していました。自分のやりたいという思いだけで突き進んできた結果、組織としての土台が脆弱なまま大きくなってしまったのです。
「そこから修正をしていくというところが、1番大変でした」と須田社長は振り返ります。店舗の縮小、事業の整理。膨らませるよりも、縮めることの方がはるかに難しい。33年間の経営を通じて、「成功はない。失敗を語ったらいくらでも喋れる」と語る須田社長の言葉には、数々の苦い経験に裏打ちされた重みがありました。
◾ 取材担当:石崎の感想
「膨張」という言葉が印象的でした。売上や店舗数という数字だけを追いかけて拡大することと、人や理念が伴った「成長」は全く別物だということを、須田社長は身をもって経験されたのだと思います。私の周りでも「起業したい」「事業を大きくしたい」という声はよく聞きますが、その先にある組織づくりの難しさまで想像できている人は少ないのではないでしょうか。失敗談を隠さず語ってくださる姿勢に、本当の経営者としての懐の深さを感じました。

YouTubeで海外からも注目。SNSは現場のパートさんに任せる「信じて委ねる」経営
須田屋のホームページには、製パン工程を紹介するYouTube動画が掲載されています。食材メーカーからの依頼で撮影されたこの動画は、国内だけでなく海外からも多くのアクセスを集めているといいます。
Instagramのフォロワーも約5,000人に達していますが、その運営は現場のスタッフに完全に任せています。
「店長からの意見もありますし、店長は店の中でパートさんや社員の方といろいろな話をしながら、SNSの運営は現場にいるパートさんで得意な方にやってもらっているという感じです」
須田社長自身は投稿内容に目を通すものの、実際の運用には関与しません。「自分ではできないものですから、もう任せています」という言葉には、現場を信頼し、得意な人に任せるという経営姿勢が表れています。
4店舗を運営する中で、月1回の店長会議を開催。しかしその会議も、今では半分以上をご子息に任せているといいます。「聞いていると、今までとは違ったやり方をしているなと感じます。そういうのを尊重していきながら、残っていける会社を目指しています」。自分のやり方を押し付けるのではなく、次の世代のやり方を認め、委ねていく。33年間の経営で培われた、須田社長なりの組織論がそこにありました。
◾ 取材担当:石崎の感想
「自分ではできないから任せる」という言葉に、肩の力が抜けた潔さを感じました。経営者というと何でもできるスーパーマンのようなイメージがありますが、須田社長は自分の苦手なことを認め、得意な人に委ねることを選んでいます。これは就活生にとっても大きなヒントになるのではないでしょうか。全てを自分でやる必要はない。自分の強みを活かし、苦手なことは周りの力を借りる。そういう働き方もあるのだと、視野が広がりました。

若手を育てる。人手不足時代の「付加価値経営」への転換
現在、須田屋では社員約20名、パートスタッフ約120名が働いています。しかし、創業から33年が経ち、古くからのベテランスタッフが定年を迎える時期に差し掛かっています。
「毎年少しずつベテランさんが抜けてしまいます。そういうベテランさんが抜けていきながら、そこに若い人を入れていかなければならない。そしてベテランの方達が作り上げた理念や想いを引き継いでいく必要があると思っています」。
パン屋という業界全体が人手不足に直面する中、須田屋も例外ではありません。専門学校への求人活動に力を入れるとともに、外国人スタッフの採用も積極的に進めています。しかし、ベテラン1人の穴を若手だけでカバーすることは容易ではありません。
そこで須田社長が注力しているのが、「付加価値の向上」です。
「単価を上げても、お客様が安いと思ってもらえるような商品作り、お店作り、そして人間力や接客。そういったものを今整えながら、これから先に進んでいこうと思っています」
量で勝負するのではなく、質で勝負する。美味しいものをより高い付加価値で提供し、お客様に「この価格でも安い」と感じてもらえる店づくり。それが、人口減少時代を生き抜くための須田社長の戦略です。
◾ 取材担当:石崎の感想
「単価を上げても安いと思ってもらえる」という発想に、経営の本質を見た気がしました。値下げ競争に陥るのではなく、価値を高めることで適正な対価をいただく。これは就職先を選ぶ際にも参考になる視点です。「給料が高いか」ではなく「その会社で自分の価値をどれだけ高められるか」。付加価値を上げるという考え方は、個人のキャリアにも応用できると感じました。

学生へのメッセージ——「理念を持ち、10年後・30年後・50年後を描いてから始める」
33年間の経営を通じて、数々の失敗を経験してきた須田社長。その経験から、これから社会に出る若者たちへのメッセージをいただきました。
「自分がもし企業をもう一度起こすとしたら、10年後、30年後、50年後、もしかしたら100年後、どういう会社にしたいのか。自分は何をしたいのか。自分の理念というものをきちんとしっかりと思った上で、会社はどうしたらいいのか、そこにまつわる社員の人たちやスタッフの皆さんはどうなってほしいのか、どうしたいのかというのを常に考えた上で、業態は何なのか、この業態の将来性はどうなのかという先のことを考えてシミュレーションができるような状態が必要だと思います」
自分のやりたいという思いだけで突き進み、「膨張」を経験した須田社長だからこそ語れる言葉です。
「失敗しないと、こういう考え方には至りません。ただ、そういう考え方も取り入れると、必ず失敗はするけれども、大きな傷にはならないのかなと思います」
そして、何よりも大切なこと。「自分がやっていて楽しくて、自分が豊かになれることが1番です。そういう考え方も取り入れていくのも一つかなと思います」。仕事は辛いもの、我慢するものという発想ではなく、自分自身が楽しみながら豊かになれる道を探すこと。小学4年生の朝、焼きたてのパンの香りに心躍らせた少年は、今もなお「楽しい」を追い求め続けています。
◾ 取材担当:石崎の感想
「10年後、30年後、50年後を描いてから始める」という言葉は、就活生にとって重い問いかけだと感じました。目の前の内定や給与だけでなく、自分の人生をどう設計したいのか。須田社長が失敗から学んだ教訓は、私たちが社会に出る前に考えておくべきことを示してくれています。そして「自分がやっていて楽しくて豊かになれること」という最後の言葉。仕事選びの本質はここにあるのだと、心に刻みました。須田社長、貴重なお話をありがとうございました。