◇企業紹介◇
有限会社舟形マッシュルームは、2001年に山形県で創業したマッシュルーム専門の農業法人です。馬糞や麦わらを微生物の力で発酵させ、有機栽培のマッシュルームを年間約1200トン生産。大手外食チェーンへの供給から、地元直売所でのレストラン運営まで、一貫した事業を展開しています。今回は、2024年6月に代表取締役社長に就任した長澤大輔氏に、学生団体GOATの石嵜がお話を伺いました。東京でのメディア系企業勤務を経て、25歳で故郷に戻り、12年間の修業期間を経て経営のバトンを受け取った長澤社長。「当たり前を疑う」をスローガンに掲げ、日本一のマッシュルームブランドを目指す挑戦の軌跡と、若者へのメッセージをお届けします。

実家の成長期に”面白さ”を見出した転機
長澤社長が舟形マッシュルームに入社したのは、25歳のとき。大学卒業後、東京でメディア系の企業に3年間勤務していた頃、実家の会社は創業10年目を迎え、まさに「油が乗っている時期」だったといいます。
「大学の選定や社会人の仕事選びをする時は、正直、帰って家業をやるということは全く考えていませんでした」と長澤社長は振り返ります。父親からの事業承継の話はあったものの、当初は自分の道を歩むつもりだったのです。
しかし、実家のマッシュルーム事業が成長していく様子を見るうちに、考えが変わっていきました。「マッシュルームの仕事って、最初は家の中の仕事で世界が狭くなると思っていたんです。でも逆に、プロダクトとして良いものを作れば、日本中、世界中のいろんな方と商売ができる。形にあるものを販売する仕事がいいなと思って、今の仕事に入りました」
東京でのメディア系の仕事は「形のないもの」を扱う世界。そこから一転、手で触れられる「美味しいもの」を作り、届ける仕事への転身。この決断の背景には、「自信を持って作った美味しいもので、いろんな方と仕事ができることの面白さ」への気づきがありました。
現在、舟形マッシュルームは日本国内のマッシュルーム生産者が10社にも満たない中で、独自の存在感を放っています。有機JAS認証を取得し、自社で堆肥から一貫生産できる体制を持つ数少ない企業。長澤社長が25歳で下した決断は、12年の歳月を経て、確かな形となって実を結んでいます。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「世界が狭くなる仕事」という先入観を持っていたという言葉に、就活生として共感しました。地方の農業や製造業に対して、私たちはつい「閉じた世界」というイメージを持ちがちです。しかし長澤社長は、良いプロダクトを作れば世界中と繋がれると気づいた。この視点の転換は、業界や企業を選ぶ際の大きなヒントになります。「形にあるものを作る」という軸を持って転職を決断されたプロセスからは、自分なりの判断基準を持つことの大切さを学びました。

「当たり前を疑う」地方×ニッチ産業から日本一を目指すスローガン
2024年6月に代表取締役社長に就任した長澤社長が掲げるスローガンは「当たり前を疑っていこう」。このシンプルな言葉の中に、複数の経営戦略が込められています。
まず第一に、「都市部で売るのが当たり前」という常識への挑戦。現在、舟形マッシュルームの売上のうち山形県内は約15%。これを30%、40%まで高めていくことが目標です。「地元で食べてもらうという視点も大事。人口は少ないけれど、人口比で日本一マッシュルームを食べる地域にしていきたい」と長澤社長は語ります。
第二に、「マッシュルームは秋冬が旬」という常識への挑戦。確かに需要は秋から冬に集中しますが、「夏は仕方ない」と諦めるのではなく、年間を通じて販売される提案をしていく姿勢を貫きます。
そして長澤社長には、日本のマッシュルーム業界全体を見据えた野望があります。「日本のマッシュルームメーカー企業の数はいくつかあって、製品も価格も横並び。日本でナンバーワンのマッシュルームって何?と聞かれても、答えがない。だから、舟形マッシュルームが一番だよねという常識を作りたい」
マーケットを牽引するリーダーがいなければ、そのマーケット自体が伸びない。その認識のもと、有機JAS認証という差別化要素と、自社での堆肥製造という強みを活かし、「日本一のマッシュルーム」の座を目指しています。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「当たり前を疑う」というスローガンが、抽象的なスローガンではなく、具体的な経営戦略に落とし込まれていることに驚きました。地元売上比率を15%から30%に上げる、夏場の需要を創出する、「儲からないけど環境に良い」を「儲かるから続ける」に変える。それぞれが数字と行動計画を伴っています。就活で企業のビジョンを聞く際、「その言葉が具体的に何を意味するのか」を確認することの大切さを学びました。

ホクトグループ参画の決断。「日本発のマッシュルーム技術」を作る挑戦
2025年5月、舟形マッシュルームは大きな転機を迎えました。キノコ業界大手のホクトグループへの参画です。この決断の背景には、長澤社長が長年抱えてきた課題がありました。
「マッシュルームの栽培技術は、基本的にヨーロッパ由来なんです。機械も資材も、ヨーロッパ人にとっては当たり前に手に入るもので成り立っている産業体系。それを日本でやろうとすると、アジャストしたり、高い資材を輸入したりしなければならない」
長澤社長自身、この課題に取り組むため、別会社を設立してオランダなど海外メーカーから直接資材を輸入する事業も手がけてきました。しかし、それは根本的な解決策ではありません。
「本質的には、食べ物じゃない資源を微生物と発酵の力でキノコに変える商売のはず。なのに、日本に合っていない部分がある。日本の未利用資源でできるキノコの技術体系を作りたいんです」
ホクトグループは、研究所をルーツに持つ企業。彼らの研究開発力と、舟形マッシュルームが持つ有機栽培のノウハウを組み合わせることで、より「日本らしいマッシュルーム栽培技術」の確立を目指します。この参画にあたり、長澤社長はSNSでの情報発信を強化しました。「グループに入る前に、舟形マッシュルームとしてのアイデンティティを説明できるようにしておこうと思って」。ファンベースの構築、ブランドの確立。大手グループの一員となっても、舟形マッシュルームらしさを失わないための布石を打っていたのです。
◾ 取材担当:石嵜の感想
大手グループへの参画を「自社のアイデンティティを失うリスク」ではなく、「長年の課題を解決するチャンス」として捉えている点が印象的でした。そして参画前にSNSでファンベースを構築するという戦略的な動き。「飲み込まれる」のではなく「活用する」という姿勢は、就活においても参考になります。大企業に入ることと、自分らしさを保つことは、両立できるのだと感じました。

学生へのメッセージ:好奇心と興味が、理性を超えて心を動かす
取材の終盤、若者の採用や人材育成について話が及んだとき、長澤社長はこう語りました。
「今はいろんな情報がある世の中で、いろんな選択肢がある。採用に関しても本当はいろんな媒体に載せなきゃいけないんだろうけど、私が大事だと思っているのは好奇心とか興味なんです。理性的な判断以上に、やっぱり心を動かしてくれると思うんです」
だからこそ、舟形マッシュルームは「面白くマッシュルームをアプローチしていく姿勢」をSNSで発信し続けています。スペック比較では見えない、その仕事の「面白さ」を伝えることで、心が動く出会いを生み出したい。そんな想いが込められています。
長澤社長自身のキャリアを振り返っても、最初から農業を志していたわけではありませんでした。東京でメディアの仕事をしながら、実家の成長を見て「面白そうだ」と感じた。その好奇心に従って故郷に戻り、12年かけて経営者になった。
「私は手段を選ばずやってきたつもりだし、これからもそうやっていこうと思っています。自分が今、半年かけても出せないような結論を、数年後の自分があっという間に解決策を導き出せる。そういう成長が気持ちいいんです」
新しい繋がり、新しい技術、新しい視点。それらを貪欲に取り入れることで、昨日までの自分では解決できなかった課題を乗り越えていく。38歳の若き社長は、今も成長の途上にいます。
就活生へのメッセージとして、長澤社長の姿勢そのものが語りかけてくるようです。理性的な条件比較だけでなく、「面白い」「やってみたい」という心の声に耳を傾けること。そして、その好奇心に従って動き続けること。それが、予想もしなかった場所で、予想もしなかった自分に出会う道なのかもしれません。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「好奇心と興味が、理性を超えて心を動かす」という言葉は、就活の本質を突いていると感じました。私たちは条件や待遇を比較して「理性的に」企業を選ぼうとしがちです。しかし長澤社長は、最初から農業を志していたわけではなく、「面白そう」という直感で人生を転換させた。12年後に社長になるなど、当時は想像もしていなかったはず。就活において、自分の「心が動く瞬間」を大切にすること。そして、その感覚を信じて一歩を踏み出す勇気を持つこと。長澤社長の歩みから、そんなメッセージを受け取りました。