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【井口食品】「10の関係を10年続ける」創業92年の老舗が守り続ける信頼の哲学

2026年07月11日

井口食品株式会社

【井口食品】「10の関係を10年続ける」創業92年の老舗が守り続ける信頼の哲学

◇企業紹介◇
井口食品株式会社は、1934年創業、福岡県に本社を置く食品メーカーです。海苔やふりかけ、出汁といった日本の伝統的な食材を中心に、スーパーマーケット向けの自社ブランド商品から、外食産業・ホテル・弁当工場等へのB2B向けの供給まで幅広く事業を展開しています。今回は4代目として2024年に代表取締役に就任した井口洋一社長に、学生団体GOATの石崎がお話を伺いました。創業から92年を迎え、100年企業への道を歩む老舗食品メーカーのトップが語る「現場主義」と「人との出会い」の哲学、そして日本の食文化を次世代に残すための想いをお届けします。

「やらなきゃいけない」という自然な覚悟で歩んだ20年

井口食品は、曾祖父の代から井口家が経営を担ってきた家業です。井口社長は4代目として、大学卒業後すぐに入社し、今年でちょうど22年を迎えます。

「小さい頃から祖父や父の背中を見て育ちました。商売人の家で、何かしら言われながら育ってきたので、半分洗脳されていた(笑)とは言いませんけれども、私がする時が来たらやらなきゃいけないんだという気持ちではいたのかなと思います」 井口社長は、どこにも就職せず、卒業と同時に会社に入りました。

世間知らずな部分もあると認めながらも、「これしかないだろう」という自然な思いで家業に足を踏み入れたといいます。入社後は製造現場から営業現場まで、すべての部門を経験。代表取締役に就任したのは2024年のことで、それまでの約20年間は徹底して「現場」で汗を流してきました。

華やかなキャリアパスではなく、地道に現場を歩んできた20年。その蓄積が、今の経営に確かな土台を与えています。食品メーカーとして「作る」と「売る」の両方を知り尽くしたからこそ、経営者として語れる言葉には重みがあります。

◾ 取材担当:石崎の感想

「これしかない」という言葉には、諦めではなく、静かな覚悟を感じました。就活では「やりたいことを見つけろ」と言われがちですが、井口社長のように「自分の役割を受け入れ、そこで全力を尽くす」という生き方もあるのだと気づかされます。20年間現場を歩いた経験があるからこそ、社員の気持ちが分かる。そんなリーダー像は、これから社会に出る私たちにとって、1つの理想の形だと感じました。

「現場が回らないと旗を振っているだけ」トップダウンとボトムアップの両立

経営者として約2年、井口社長が最も大切にしているのは「現場主義」です。中小企業のオーナー企業としてトップダウンで決断すべきこともある一方、現場の声を無視しては何も動かないという実感があるといいます。

「現場が回らないと、ただ旗振ってるだけになってしまうな、と。ここが1番大事な部分だなと思っていて、トップダウンで決めるべきこととボトムアップで決めること、両方やっていくことが大事なのかなっていうのは感じています」

井口社長は、自分1人の100歩よりも、社員全員が1歩ずつ進む組織を目指しています。製造と営業の両方を経験してきたからこそ、両部門の相反する事情も理解できる。その経験が、バランスの取れた経営判断を可能にしているのです。

さらに、就任後に新たに掲げた理念があります。それが「社員第一主義」です。

「お客様第一主義はもちろんそうだと思います。ただ一方で、ここ3年で理念に追加したことで、社員第一主義というのも掲げるようにしました。お客様第一と社員第一、どっちも第一で掲げている。この2つが交わるところを考えていくのが大事じゃないかと」

お客様の喜びと社員の喜び、その重なる部分を見つけることで、両方を実現できる。単なるスローガンではなく、その交差点を探し続ける姿勢が、井口食品の経営哲学です。

◾ 取材担当:石崎の感想

「お客様第一」と「社員第一」を同時に掲げるという発想に驚きました。どちらかを優先するのではなく、その交わる部分を探すという考え方は、就活でも「企業と自分のマッチング」を考える際に応用できると思います。私も飲食店でアルバイトをしていた時、スタッフの雰囲気がお客様に伝わると感じた経験があります。社員が幸せでないと、良いサービスは生まれない。この当たり前のようで難しいことを、井口社長は言語化して実践されていると感じました。

コロナ禍で直面した「業界が経験したことのない」環境変化

井口食品は、スーパーマーケット向けの自社ブランド商品(B2C)と、外食産業・ホテル・弁当工場への材料供給(B2B)の両方を手がけています。コロナ禍では、この事業構造が明暗を分けました。

「外食産業さんなんていうのはもう本当に売上が激減しました。ただ一方で、巣ごもり需要と呼ばれるぐらい、家で食べるという分野は伸びた。うちもバランスよくやっていたので、大きく落ちた部分もあったけど、逆にカバーできる部分もあった」

しかし、コロナ以上に深刻な問題が、原材料の高騰です。物価高は食品業界全体に影響を与えていますが、特定の原材料においては「業界が経験したことのないレベル」での価格上昇が起きているといいます。

「業界全体が、本当に先どうなるんだみたいな、今まで直面したことのない環境に立たされています。大きな課題ではあるけれども、真摯に向き合って1歩1歩やっていくしかないと考えています」

井口社長は、困難を一気に打ち砕くような派手な解決策を求めるタイプではないように感じます。「1つ1つ丁寧に課題をやっていくしかない。だから大変なんて言っていられないというか、そんな心持ちです」と語るその姿勢には、老舗企業を率いる経営者としての覚悟が滲みます。

◾ 取材担当:石崎の感想

「大変なんて言っていられない」という言葉には、経営者としての重みを感じました。コロナ禍や原材料高騰といった、自分ではコントロールできない外部環境に対して、嘆くのではなく「1歩1歩」という姿勢で臨む。これは就活においても、不採用が続いた時などに思い出したい考え方です。

B2Cと海外展開、自社ブランドで「身近な存在」を目指す

コロナ禍を経て、井口食品が力を入れているのがB2C事業と海外展開です。これまでB2B主体でやってきた同社にとって、自社ブランドを消費者に直接届けるB2Cは、メーカーとしての存在意義を示す重要な領域です。

「自社ブランドを持って、自社ブランドを使ってもらうというところがメーカーとしてやっていきたいところではあった。」

特に重視しているのが「ブランドへの信頼」です。海苔やふりかけといった商品は、ご飯の「脇役」的な存在。だからこそ、消費者が何気なく手に取る時に、安心感や親近感を持ってもらうことが重要だといいます。

「どこまで安心だったり、身近な存在になるか。我々が扱っている食材ではそういうところが大事なんです」

海外展開についても、日本食への世界的な注目を追い風に、少しずつチャレンジを進めています。九州という立地を活かし、佐賀や長崎、鹿児島、大分など、地元の良質な農水産物を原材料として活用。地域に根ざした食品メーカーとして、日本の食文化を世界に届ける役割を担いたいという想いがあります。

SNSを活用したブランディングにも取り組み始めていますが、「まだまだ手探りで、トライアンドエラーの段階」と正直に語る井口社長。通信販売部門を中心に、Instagram等での情報発信を少しずつ進めています。

◾ 取材担当:石崎の感想

「ご飯の脇役」という表現が印象的でした。主役ではないからこそ、信頼感や親近感が求められる。これは就活における自己PRにも通じる考え方だと思います。派手な実績がなくても、「この人なら安心して一緒に働ける」と思ってもらえることが大切。また、創業92年の老舗がSNSに挑戦している姿勢には、変化を恐れない柔軟さを感じました。伝統を守りながら新しいことに挑む、その両立が企業の長寿の秘訣なのかもしれません。

若者へのメッセージ「10の関係を10年続ける」人との出会いが生む信頼

若者へのメッセージを求めると、井口社長は「特にやりたいことを意識しなくてもいいんじゃないか」と意外な言葉を口にしました。ただし、起業を目指すなら早い段階からお金の勉強をすべきだと付け加えます。

「何でも試してみる、いろんな人と話す、人との出会いを意識してみる。それが1番いいんじゃないかと思います。例えばアルバイト1つ取ってみても、この店ってどういう風に利益を出してるのかなとか、そういう視点でちょっと考えてみると、いろんな見え方が面白くなる」

44歳になった今でも、井口社長は「人との出会い」の重要性を強く感じています。そして、その出会いについて独自の哲学を語ってくれました。

「100のことを1回してくれた関係よりも、10のことを10年間続いた関係の方が、信用だったり安心だったり、何事にも代えがたいものになるんじゃないかなと思っています」

華やかさはなくても、小さな関係を継続する。5年、10年と続いた関係は、困った時に助けてくれる、何事にも代えがたい財産になる。仕事においても、1人でやらなければならないことはあるけれど、いろんな人に助けてもらったり、協力してもらったりすることも絶対に出てくる。だからこそ、若いうちから人との出会いを大切にしてほしいと、井口社長は語ります。

「人との関係を若ければ若いほどやればやるほど、本当に有利なゲームで、いろんな世界が広がるんじゃないかなと思います」

◾ 取材担当:石崎の感想

「10の関係を10年続ける」という言葉は、今回の取材で最も心に残ったメッセージです。SNSで簡単に人と繋がれる時代だからこそ、「継続」の価値は逆に高まっているのかもしれません。就活でも、OB訪問で出会った社会人との関係を1回で終わらせず、入社後も続けていくことで、キャリアの幅が広がる可能性がある。派手なことをするよりも、小さな繋がりを大切にし続ける。その姿勢を、私も実践していきたいと思いました。