◇企業紹介◇
株式会社加島屋は、1855年(安政2年)創業、新潟県新潟市に本社を構える老舗食品メーカーです。創業以来171年にわたり、海産物の加工・販売を手がけてきました。なかでも、昭和39年より販売を開始したキングサーモンを使用した「さけ茶漬」は、同社を代表する看板商品として広く知られています。現在は百貨店への卸売りと自社オンラインショップでの直販を二軸に展開し、2025年にはおにぎり専門店も再オープン。
今回は5代目代表取締役社長・加島長八氏に、学生団体GOATの石崎がインタビューを実施。170年以上続く企業が直面した「原料危機」をどう乗り越えたのか、そしてこれからの時代に必要な「人との繋がり」について、貴重なお話を伺いました。

2007年、原料が消えた。10年越しの養殖事業が老舗を救う
加島屋の看板商品である「さけ茶漬」。その原料となるキングサーモンは、長年アラスカの天然物を使用してきました。しかし2007年、衝撃的なニュースが飛び込んできます。アラスカのユーコン川で獲れるキングサーモンが、資源保護のため全面禁漁になったのです。
「要はさけ茶漬を作る原料が手に入らなくなるという事態になったんです」。老舗にとって、これは存亡の危機でした。しかし、加島屋には切り札がありました。1990年から密かに準備を進めていた、カナダでのキングサーモン養殖事業です。
「将来的に量の確保も不安があったものですから、養殖事業を始めようかっていう話になって、スタートしたんですね」。先代の時代から始まった養殖への取り組み。加島社長が入社した1992年以降は、彼がこの事業を引き継ぎました。しかし、安定した品質のキングサーモンが水揚げされるまでには、実に10年以上の歳月がかかりました。
「2000年代に入って安定的に水揚げができるようになってから、2007年を迎えて、天然のキングサーモンの入手ができなくなったんで、ちょうどそこの時点で入れ替えたっていう格好になったんですね」。まさに綱渡りのタイミング。しかしそれは、10年以上前から将来を見据えて種を蒔いていたからこそ実現したのです。
現在もカナダでの養殖事業は継続しており、加島屋の品質を支える重要な柱となっています。目先の利益だけでなく、10年、20年先を見据えた投資と準備。老舗企業が生き残り続ける秘訣は、この長期的視点にあるのかもしれません。
◾ 取材担当:石崎の感想
10年以上かけて養殖事業を育て、結果的にそれが会社を救った。この話を聞いて、「今すぐ結果が出ないこと」への向き合い方を考えさせられました。就活でも、すぐに内定が出ないと焦ってしまいがちです。でも、本当に価値のあることは時間がかかる。10年越しの準備が会社を救ったこのエピソードは、「今この瞬間」だけで判断しないことの大切さを教えてくれます。

「人脈がすべて」。ネット時代だからこそ、直接会うことの価値
経営において最も大切にしていることは何か。この質問に、加島社長は迷いなく答えました。「人脈ですよね。人との繋がり。これがないと、何かあった時に対応してくれる人がいないと困ります」。
加島屋の事業は、原料の調達から成り立っています。魚を獲ってくれる人、養殖してくれる人、一次加工をしてくれる協力会社。彼らとの信頼関係がなければ、どれだけ優れた商品開発力があっても、そもそも商品を作ることができません。「魚を獲ってくれる人、魚を作ってくれる人との関係を、これからも大切にしてやっていくしかないのかなと思ってます」。
加島社長は、北海道の協力会社はもちろん、ヨーロッパのデンマークやノルウェーにも足繁く通いました。サーモントラウトを養殖している会社と資本関係はなくとも、品質の見極めとコミュニケーションのために現地を訪れる。「もし何かあった時に、原料の手配というのは非常に難しいので」。リスクヘッジのためにも、日頃からの関係構築が欠かせないのです。
しかし、ここで加島社長は現代の若者に向けて、重要な指摘をしました。「仕事において、人の繋がりっていうのは仕事の時だけではなくて、例えば夜、夕飯食べに行ったり飲みに行ったりとかっていう、そういう仕事以外のコミュニケーションも必要だと思う」。オンラインで繋がれる時代だからこそ、直接会って話をすることの価値は、むしろ高まっているのではないか。
「ネットだけとかSNSだけで繋がっている関係だと、どうしても弱いんじゃないかなという風に感じるので、直接会って話をするっていうのが一番大切なんじゃないかなと思ってます」。デジタルネイティブ世代への、アナログの価値を伝えるメッセージでした。
◾ 取材担当:石崎の感想
「SNSだけの関係は弱い」という言葉が刺さりました。私たちの世代は、DMやLINEで簡単に繋がれると思いがちです。でも、それは「繋がった気になっている」だけかもしれない。仕事の話だけでなく、一緒にご飯を食べて、雑談をして、人となりを知る。そういう関係構築こそが、いざという時に助けてくれる「本当の人脈」になる。そう感じさせていただきました。

コロナを乗り越え、おにぎり処として再出発。SNS発信は若手社員の手で
加島屋は長年、本店でレストランを営業していました。自社商品を使った海鮮丼やキングサーモンの定食など、加島屋の味を気軽に楽しめる場所として親しまれていました。しかし、2020年のコロナ禍で営業継続が困難になり、一時閉店を余儀なくされます。
そして2025年7月、その店舗は「おにぎり処」として生まれ変わりました。加島屋の看板商品を具材にしたおにぎりは、SNS映えするビジュアルも相まって、新しい客層の開拓に成功しています。
興味深いのは、加島屋のSNS発信を担っているのが若手社員だということです。「今うちの紹介ビデオとか、インスタとかを作ってるのは、若い社員を中心に作ってもらってるんですけども、私は全然一切タッチはしてません」。若手に任せる。口出しはしない。この姿勢が、若い世代に響くコンテンツ作りを可能にしています。
実は、加島屋がインターネットに力を入れ始めたのは加島社長の発案でした。先見の明があった社長が土台を作り、今は若手に任せる。この「種を蒔いて、育てる人に託す」というスタイルは、養殖事業にも通じるものがあります。
「早いうちから始めておいてよかったなっていうところです」。ネット通販が当たり前になった今、その言葉には確かな実感が込められていました。
◾ 取材担当:石崎の感想
若手に全面的に任せている。「自分が始めたから口を出す」ではなく、「自分が始めたからこそ、次の世代に任せる」。この姿勢は、170年以上続く企業のバトンの渡し方そのものだと感じます。

学生へのメッセージ:専門以外の経験を積め。行動を起こせ
最後に、これから社会に出る若者へのメッセージを伺いました。加島社長は、自身の経験を踏まえてこう語ります。
「例えば今まで勉強されてきた専門分野があると思うんですけれども、専門以外のいろんな分野の知識を持ちいろんな分野を見聞きしておく、経験しておくってことが必要なんじゃないかなと思います」。
本を読むことも大切。しかし、それだけでは足りない。「座学だけだとやっぱり偏っちゃうので本を読むことも必要ですが、実際行動に起こすことも必要なんじゃないかなと思います」。
また、現代の若者に対しては、こんな問いかけもありました。「自分でその物事を始めたいっていう精神が、昔から比べると減っているのかなと思うんですけれども、やっぱり自分のやりたいことをどんどんやっていく人が減ってきちゃって、自己発信する人があんまりいなくなってきたんで、そこら辺ちょっと寂しいなって感じはするんですけど」。
守りの姿勢ではなく、自分から動く。専門に閉じこもらず、広く経験を積む。170年以上続く企業を率いる経営者からの、シンプルだが本質的なメッセージでした。
◾ 取材担当:石崎の感想
「自己発信する人が減ってきて寂しい」という言葉が、私たち若者への期待のようにも感じられました。専門を深めることと、広く経験を積むこと。両方が必要だという教えを、これから長い人生において意識していきたいと思います。