酒井産業は、長野県に拠点を置く木工製品・竹製品の企画・販売を手がける企業です。全国約100社の生産者と連携し、日本の伝統的なものづくりを支えながら、近年は古民家を活用した体験型観光事業にも挑戦しています。今回は、7年前に社長に就任した酒井社長に、経営哲学と今後のビジョンについてお話を伺いました。

現場で培った10年間の下積みが経営の礎に
私は長野県で生まれ育ち、大学卒業後は東京の宝飾会社で3年間勤務しました。指輪の製造から販売、原石の輸入まで会社全体の流れが見える環境で働き、仕事が楽しくなり始めた頃に実家から呼び戻されました。その時の「立ち切って戻る」という決断が、経営者としての第一歩となりました。
入社後は開発部署に配属され、約10年間、全国の仕入れ先工場を訪ね歩きました。この時期に「ものづくりの最前線」で働く方々と直接関係を築けたことは、その後の営業活動や社長就任において、何物にも代えがたい財産となっています。
社長就任からわずか3ヶ月で先代の父が急逝し、事業承継と相続という課題に直面しました。しかし、下積み時代に培った製品や現場への深い理解という「軸」があったからこそ、乗り越えられたと考えています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
10年という歳月をかけて「現場の信頼」を積み上げた姿勢は、就活生にとって大きな学びになるはずです。華やかな成果の裏には地道な下積みがあり、それが後の危機を救う土台になるのだと教えられました。すぐに結果を求めがちな時代だからこそ、この姿勢を大切にしてほしいと思います。


「正論では人は動かない」信頼の貯金という教訓
実家に戻った当初、前職の上場企業と比較して、アナログな組織体制に強い違和感を抱いていました。都会で学んだ効率的なシステムや論理的な「正論」をぶつけ続けていたところ、生産者グループのリーダーから「あんたの言う正論だけでは、俺たちは動かないよ」とはっきり告げられました。
ビジネスにおいてシステムや論理は必要ですが、その前には必ず「人間関係」が存在します。経営が苦しい時期に助け合い、共に苦労を乗り越えてきた歴史の積み重ねこそが、人々を動かす真の原動力だったのです。
この経験を機に、父を一人の経営者として心から尊敬し、言われたことには100%の覚悟で向き合うようになりました。自分の正しさを主張するのをやめ、生産者の方々との絆を一から構築し直したことが、現在の強力な連携体制へと繋がっています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
論理的に正しいことが、必ずしもその場での最適解ではないという事実は衝撃的かもしれません。しかし、困難を共に乗り越えた歴史や人間関係への敬意こそが、ビジネスを動かすエンジンです。これから社会に出る学生が最も大切にすべき教訓だと感じました。


人生を豊かにする「花仕事」の哲学
私は「花仕事(はなしごと)」という考え方を大切にしています。これは、自分の仕事の中に子供たちのこと、未来のこと、地域のことを少しずつ取り入れていく姿勢のことです。
1日のうちの多くの時間を単なる「作業」として過ごすのは、あまりにももったいないことです。仕事を通じて社会を学び、そこで生まれる多様な人間関係を豊かにしていくことが、巡り巡って自分自身の人生を支える強固な土台となります。
年齢を重ねるごとにこの「花仕事」の比率を増やし、定年時には「仕事」と「花仕事」が半分ずつになっている状態が理想です。企業は常に社会と繋がっており、その循環の中で自分も貢献していくという視点が、持続可能なキャリアを築く鍵になると信じています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
仕事を自己目的化せず、社会への貢献という「花仕事」を混ぜるという考え方は、非常に豊かな働き方です。就活においても「その仕事を通じてどのような社会貢献ができるか」という視点を持つことで、企業選びの質が変わるのではないでしょうか。


伝統と体験を融合させ、生産者と歩む未来
これからの酒井産業が目指すのは、「観光」「インバウンド」「文化」「伝統」を融合させた事業の構築です。日本の伝統的な木工技術を「文化的な体験」として世界へ発信していくことが私たちの使命です。
地元で古民家を譲り受け、漆器の製作体験や木工ワークショップ、中長期滞在できる宿泊機能を持たせる予定です。都会から来る若いデザイナーやカメラマンが私たちの伝統技術と触れ合うことで、新しい価値が生まれる場所を目指しています。
全国約100社の生産者も世代交代の時期を迎えています。生産者の方々と一つのチームとなり、共に日本の伝統技術を繋いでいかなければなりません。現在39名の組織を50名規模へ拡大し、木工技術を次世代へと繋ぐ挑戦を続けてまいります。
取材担当者(石嵜渉)の感想
伝統を守るだけでなく、現代的な「体験」と結びつけて発信しようとするビジョンに、非常にワクワクしました。地域の魅力を再発見し、新しい価値を創造したい若者にとって、酒井産業は自分の可能性を最大限に試せるステージになると確信しました。
