◇企業紹介◇
株式会社塚田牛乳は、1901年に新潟県上越地域で創業し、今年で125周年を迎える老舗乳業メーカーです。初代が牛1頭を購入したことからスタートし、酪農と乳業の両輪で事業を展開。約75年前に乳業へ専念する決断を下し、現在は新潟県内の宅配、スーパー、学校、病院を中心に牛乳・乳製品を届けています。今回は5代目社長・塚田忠幸氏に、学生団体GOAT・石嵜が取材を行いました。沖縄の大学でポルトガル語を学び、ブラジル留学も経験した異色の経歴を持つ塚田社長。「継ぐ気はなかった」と語る同氏が、いかにして125年の伝統を受け継ぎ、新たな挑戦を続けているのか。その軌跡と経営哲学、そして若者へのメッセージをお届けします。

「継ぐ気はなかった」沖縄の大学で学んだ異色の跡継ぎ
塚田牛乳の歴史は、1901年に初代が牛1頭を購入したことから始まります。上越地域から新潟市へ、電車もない時代に牛を連れて馬車で歩いて移動するところからのスタートでした。酪農と乳業の両方を手がけていた時代を経て、約75年前に農水省からの指導により、乳業へ専念する決断を下します。2代目は新潟県内の酪農の発展にも貢献し、地域の乳業を支える基盤を築いてきました。
そんな125年の歴史を持つ企業を継ぐことになった塚田社長ですが、当初は全く違う道を歩んでいました。「大学は全然違う分野に行ってたんで、もう継ぐ気なかったんですよ。そもそもが。継がなくていいって言われてたんで。」と語ります。沖縄の大学でポルトガル語を学び、乳業とは無縁の学生生活を送っていた塚田社長。転機が訪れたのは大学2年生のときでした。
現会長から「やっぱり継いでくれないか」と打診を受けた塚田社長は、意外にも軽い気持ちで承諾したといいます。「経営者とは、組織をまとめて前に進めていく仕事だろうと、当時はシンプルに捉えていました。」。この言葉からは、若き日の塚田社長の率直な心境が伝わってきます。
しかし、すぐに家業に入ったわけではありませんでした。まずは取引先の会社で2年半ほど修業を積むことになります。そこはベルギーワッフルを製造する会社で、常温保存できる商品を扱っていました。チルド商品しか持たなかった塚田牛乳にとって、常温商品という新たな可能性を学ぶ貴重な機会となったのです。
◾ 取材担当:石嵜の感想
シンプルな価値観で経営者という立場を捉えられていたことに正直驚きました。しかし、この軽やかさこそが、伝統に縛られすぎない柔軟な経営につながっているのかもしれません。就活においても、最初から完璧な志望動機がなくても、まず飛び込んでみることの大切さを教えていただいた気がします。沖縄の大学からブラジル留学、そして新潟の乳業メーカーへ。一見バラバラに見えるキャリアが、実は塚田社長の独自の視点を形成していることが印象的でした。

北海道の酪農家との運命的な出会い—新たなパートナーシップの構築
乳業メーカーにとって、原料となる生乳の確保は事業の根幹です。しかし、塚田社長が社長に就任した5〜6年前、新潟県内には約140軒あった酪農家が、直近では90軒台まで減少しています。高齢化と後継者不足により、この傾向は今後も続くことが予想されます。「売上を上げなきゃいけないのに、メインとなるものがない」という深刻な課題に直面していました。
転機となったのは、3〜4年前の北海道の酪農家との出会いでした。「全然北海道から引っ張ろうなんて考えてもなかったんですけど、そこの酪農家さんが、自分のところの牛乳をもっとPRしたいんだと、売りたいんだと、ものすごいプライドを持ってらっしゃって。こんな酪農家さんいるんだと思って」。自分の牛乳に誇りを持ち、積極的に販路を開拓しようとする酪農家との出会いは、塚田社長の経営観を大きく変えました。
その酪農家が所属する組合には、同じように自分の牛乳に自信を持つ生産者が多く在籍しています。塚田牛乳は乳製品の製造技術を持っているため、彼らの原料を使ったバターやチーズなど、新たなブランド商品の開発が可能です。「同じ方向を向いてるパートナーができたみたいな感じですね」と塚田社長は語ります。
直近では、その酪農家の生乳を100%使用したオリジナルバターの開発に取り組んでいます。酪農家は生産のプロですが、販売のスキルは持ち合わせていません。
ふるさと納税と並行した販売網として塚田社長は自社の販売網を最大限活用した本格的な展開を提案。酪農家のこだわりの生乳を、より多くの消費者に届けることを目指しています。現在、販路開拓に注力しています。「売れてくれれば酪農家さんも儲かりますし、もっといろんなことができるねって話はしていて」。生産者と加工メーカーが対等なパートナーとして、新たな価値を生み出す関係が構築されつつあります。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「同じ方向を向いているパートナー」という言葉が心に残りました。ビジネスにおいて、単なる取引先ではなく、共に成長できる関係性を築くことの重要性を感じます。就活においても、給与や福利厚生だけでなく、その会社が目指す方向性に自分が共感できるかどうかを考えることが大切だと改めて思いました。酪農家が減少するという業界全体の課題に対して、嘆くのではなく新たなパートナーシップで乗り越えようとする姿勢に、経営者としての強さを感じました。

学歴より柔軟性—塚田牛乳が求める人材像
多くの企業が人手不足に悩む中、塚田牛乳では若者の採用に困っていないといいます。最年少の社員は23歳。7年ほど新卒採用を行っていないにもかかわらず、若い人材が集まってくる理由はどこにあるのでしょうか。
塚田社長は採用における学歴重視の姿勢を否定します。「あまりその学歴に重きを置いてないんですよ。確かに頭の回転の速さとか大事かもしれないですけど、勉強と仕事って全然違うと思うんで」。高学歴の人材を採用しても、必ずしも仕事で成果を出せるとは限らないという経験則があります。「学歴よりも、状況に応じて柔軟に判断できる力を大切にしています。仕事は教科書通りにはいかない場面の連続ですから、素直に吸収して応用できる人が結果的に伸びていくと感じています」。
数学であれば公式通りに解けば答えが出ますが、仕事はそうはいきません。基本的な型はあっても、状況に応じた応用や「こうなった時どうする」という判断が常に求められます。「その切り替えができる人って考えると、逆に何も知らない方が入りやすいというか」。先入観なく学べる姿勢こそが、塚田牛乳が求める人材像です。
昨年から今年にかけて、会社の人事評価制度を見直しました。その際、主力メンバーを若手中心で組んだといいます。「自分たちが将来部長とかそういう役職についた時に、どういう部下が欲しいですかっていう問いを立てて、この仕事を習得してきて欲しいよね、覚えて欲しいよねっていう目線で作ってもらったんです」。長年会社を支えてきたベテラン社員の経験と知恵を継承しながら、次の世代を担う若手が成長できる環境づくりに力を入れています。
転職についても肯定的な見解を持っています。「いろんな経験を積んでスキルを身につけることが大事だと思っています。長く働けばいいというものではなく、自分が本当に活躍できる場所で力を発揮してほしい。うちに来てくれた人には、ここで得た経験を糧に、長く活躍し続けてほしいと思っています」。終身雇用を前提としない、現代的な働き方への理解が感じられます。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「自分が活躍できる場所に行くのが一番いい」という言葉に、塚田社長の懐の深さを感じました。社員を囲い込もうとするのではなく、個人の成長を第一に考える姿勢は、若い世代にとって非常に魅力的に映るはずです。人事評価制度を若手主導で作らせたというエピソードも印象的でした。「将来の自分が欲しい部下像」から逆算して制度を設計するという発想は、若手のモチベーション向上にも直結すると思います。就活において、その会社が若手をどう育てようとしているかを見極めることの重要性を学びました。

学生へのメッセージ—海外経験が視野を広げる
塚田社長自身、学生時代に社会人から「もっと遊んどきなよ。仕事始まったら遊ぶ時間ってないから」と言われていたそうです。そして社会に出た今、その言葉の意味を実感しているといいます。
特に強調されたのが、海外経験の重要性でした。「海外1回行った方がいいですよ。日本ってこんなに恵まれてるんだっていうのを実感して見ると、全然見方変わってくるんで」。塚田社長は高校生の時にロータリークラブの交換留学で1年間ブラジルへ、さらに沖縄の大学時代にもブラジルの別の都市へ留学しています。
2回目のブラジル留学では、日本から研究のために渡航している日本人コミュニティと交流する機会がありました。そこで実感したのは、日本の技術力の高さです。「日本の技術ってすごいんだなっていうのをそこで実感するんですよね。世界で通用するんだなと。これはもっと日本で生かしていかないともったいないと思いました」。この気づきは、日本国内だけにいては決して得られないものでした。
今の学生はYouTubeなどで海外の情報を簡単に得られます。しかし塚田社長は「見るのと体験するのって全然違いますよね」と強調します。むしろスマートフォンで翻訳アプリがすぐ使える現代の方が、海外に行くハードルは下がっているはずだと指摘します。
学生時代にしかできない長期の海外滞在。社会人になってから1週間、1ヶ月の休みを取ることは容易ではありません。だからこそ、今のうちに世界を見て、体験して、日本という国の価値を外から眺める経験をしてほしい。それが塚田社長から若者への切実なメッセージです。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「見るのと体験するのは全然違う」という言葉が胸に刺さりました。情報があふれる現代だからこそ、実際に体験することの価値が相対的に高まっているのかもしれません。塚田社長がブラジル留学で「日本の技術は世界で通用する」と気づいたように、外に出て初めて自分の立ち位置や強みが見えてくることがあります。就活においても、インターンシップやOB訪問など、実際に体験することでしか得られない情報があるはずです。このインタビュー自体も、記事を読むだけでは分からない塚田社長の人柄や熱量を直接感じることができ、非常に貴重な経験となりました。