◇企業紹介◇
タビオ株式会社は、大阪に本社を構える靴下専門企業である。「靴下屋」「Tabio」などの靴下専門店を展開し、国内のみならずロンドン・パリ・中国・韓国にも店舗を持つ。創業者の理念を受け継ぎながら、メイドインジャパンの靴下づくりにこだわり続けている。今回は2代目社長・越智勝寛氏に、学生団体GOATの木浦亮斗が取材を行った。社長業20年のキャリアを持つ越智社長が語る「役職観」「永続への使命」「就活生へのメッセージ」を通じて、ものづくり企業のリアルな姿をお届けする。

「継ぐ気はなかった」大学中退からの入社。軽い気持ちで選んだ道が20年続く理由
越智社長は、幼少期に両親が離婚しており、創業者である父親とは、一緒に暮らしていなかった。大学4回生の時、あるアルバイト先から正社員として誘われた際、母親に相談したところ「父の会社で人が足りないらしい」と聞かされた。「そっちの方がチャンスが大きいかもしれない」と、深く考えずに電話をかけたのが入社のきっかけだったという。
「家業を継ぐという感覚は全くなかったですね。たまたま父の会社に入っただけです」と越智社長は振り返る。高校時代からアルバイトを重ね、接客業、レンタルビデオ店、新聞配達、印刷業、シャープでの製造業など、様々な業種を経験してきた。特にシャープでは朝9時から夕方6時半まで冷蔵庫やエアコンの製造に携わり、その後ロイヤルホストで深夜2時まで働くという「ダブルワーク」をこなしていた。週末はビデオレンタル店でも働いたという。
「働くのが嫌いじゃなかったんですよ。音楽が好きで、レコードを買うために働いていました。大学時代から一人暮らしを始めたので、生活費も稼がなければならなかった」と当時を語る。このような経験が、後に社長として「現場を知る経営者」としての土台を作ったのかもしれない。37歳で社長に就任し、以来20年間その立場を務めている。
「家業感はないですね。社員になって、たまたま続けてきただけです」という言葉には、肩の力が抜けた自然体の経営姿勢が表れている。
◾ 取材担当:木浦亮斗の感想
2代目社長というと、幼い頃から将来の継承を意識して育てられたイメージがありました。しかし越智社長の場合は全く違い、「軽い気持ちで入社した」という正直な言葉に驚きました。むしろ、様々なアルバイト経験を通じて「働くこと」の本質を体で覚えてきたからこそ、今の経営スタイルがあるのだと感じます。就活生にとっても、最初の選択が「正解」である必要はなく、目の前のことに全力で取り組む姿勢が大切だという学びになるのではないでしょうか。

「社長はただのポジション」役職に囚われない経営哲学が会社を強くする
越智社長に「社長として心がけていること」を尋ねると、意外な答えが返ってきた。「自分自身であるということですかね。あんまり社長だからって特別なことはしないようにしています。普通に過ごすようにしています」という言葉だ。
「役職はただの役職なんです。社長と言っても、社長って役職をしているだけ。サッカーで言えば、たまたまキャプテンや監督をやっているだけで、与えられた役割を全うするだけのこと。明日部長になったら部長の役割を全力でこなす、そういう感覚です」と越智社長は説明する。
この考え方には、同世代の2代目・3代目経営者たちの失敗を見てきた経験が背景にある。「大手企業の2代目さん、3代目さんで知り合いがたくさんいましたが、全員もう会社にいなくなりました。話を聞くと、だいたい権力争いが好きだったり、『俺は誰の息子だと思っているんだ』みたいなことをやってしまっている」という。
「偉そうにしても何もいいことがないので、適当に普通にやっています」という言葉は、一見すると軽く聞こえるかもしれない。しかし、これは20年間社長を務めてきた越智社長なりの「生き残りの知恵」でもある。権力や役職に執着することで頭打ちになり、会社を追われた同世代の経営者たちを数多く見てきたからこそ、たどり着いた境地なのだ。
「会社に入ったら上司も部下もなくて、先輩と後輩、年上と年下はありますけど、男女も含めてそれ以外はあまり関係ないかなと個人的に考えています」という言葉には、フラットな組織文化への志向が表れている。
◾ 取材担当:木浦亮斗の感想
「社長はただのポジション」という言葉を聞いた時、最初は「気楽に言っているのかな」と思いました。しかし話を聞くうちに、これは覚悟の裏返しだと気づきました。「明日首になっても構わない、また就活するだけ」と言い切れるのは、自分の価値を役職ではなく「何ができるか」で測っているからです。就活生にとって、入社後のキャリアを考える上で非常に重要な視点だと感じました。役職を目標にするのではなく、その役割を全うすることにフォーカスする姿勢は、どんな仕事にも通じる本質だと思います。

ロンドン・パリへの出店は「売上拡大」ではない。靴下文化の聖地で認められるためのチャレンジ
タビオは国内だけでなく、ロンドン、パリ、中国、韓国にも店舗を展開している。海外進出の理由を尋ねると、一般的な「市場拡大」とは全く異なる答えが返ってきた。
「ロンドンは2002年、パリは2019年に出店しました。両方とも20年ほど経っている事業です。ただ、出店理由は他の会社さんとは違います」と越智社長は語る。「今の洋服文化はヨーロッパから来たものです。その聖地とも言えるロンドンやパリに、靴下専門店は存在しなかった。だから一度チャレンジしてみようと思ったのです」
目標は多店舗展開ではない。「パリの一角にあるお店が『靴下の老舗』と言われる、つまり今のエルメスやルイ・ヴィトンのような存在になりたい。創業者も私も同じ思いで、この事業に取り組んできました」という言葉に、その志の高さが表れている。
中国展開については、また別の経緯がある。「コロナ禍の中で、中国の非常に素晴らしいオーナーさんが何度も足を運ばれ、うちの会長に話をされました。会長は実は近隣の国に対してあまりよくない印象を持っていたのですが、そのオーナーさんの姿勢に胸を打たれ、出店を決めました」
「中国ではメイドインチャイナの靴下も販売しています。中国の方にも『メイドインチャイナ』に誇りを持ってもらいたい。日本のお客様には『メイドインジャパン』に誇りを持ってもらう。それぞれの国で、それぞれの誇りを大切にする事業にしたかったのです」
韓国にも2店舗を展開しており、こちらは韓国人デザイナーのオーナーと協力しながら運営している。「他社さんのように100店舗200店舗作ってトップラインを上げるという考えはあまりないです」と越智社長は明言する。各国での出店には、それぞれの文化へのリスペクトと、その土地で認められるかどうかというチャレンジ精神が根底にある。
◾ 取材担当:木浦亮斗の感想
海外進出というと、どうしても「売上拡大」「市場開拓」といったビジネス的な理由を想像していました。しかしタビオの場合は「文化の聖地で認められたい」という、職人気質の挑戦心が原動力になっていることに感銘を受けました。また、中国で「メイドインチャイナ」に誇りを持ってもらうという考え方は、単なる製造委託とは全く異なる姿勢です。グローバルビジネスを考える就活生にとって、「その国の文化や誇りを尊重する」という視点は非常に重要な学びになると思います。

「流行に乗らない」「変えるべきものは根こそぎ変える」永続のための二刀流経営
タビオが長年愛され続けている理由について尋ねると、越智社長は「物づくりの仕方を効率ではなく、変えないということ」と答えた。しかし同時に「それだけでは忘れられるブランドになる」とも語る。
「昔ながらの物づくりをずっとやってきています。新しい機械が出てきたら、そこにチャレンジしていくこともあります。ただ、機械の速度を上げて効率を上げ、早く作ってたくさん儲けようということはしない。他の会社は編み方でも効率を上げようとしますが、うちは絶対にそれをしません」
この姿勢は、協力会社との関係にも表れている。「取引先の工場さんの採算のこともありますので、時代に合わせて値上げをずっとしてきました。時には『タビオはすごく高い会社だ』と言われたこともあります。でも、それは日本で作っているからこその値段なのです」
一方で、変えるべきものについては躊躇なく変える。「7年ぐらいのサイクルで大きく変えていかなければならないと思っています。GAFAだって50年経てば一切ないと思いますよ。1990年代の世界最大の大富豪は西武の堤さんでした。それから30年しか経っていないのに、スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクがずっと昔からいたような気持ちになっている」
「変わるものと変わらないものをはっきりさせて、変えるものはもう根こそぎ変えてしまう。守らなければならない物づくりやサービスの精神は変えない。それ以外は全部変えてしまってもいい」
大手SPA企業を例に挙げながら、越智社長は両社の違いを説明する。「敢えて言えば、あちらは売り方を変えずに、作る方を変えていっている会社。うちは全く逆で、物づくりは変えずに、売り方やシステムは時代に合わせて変えていく。どちらが正解ということではなく、それぞれのやり方がある」という言葉に、自社のポジショニングへの明確な意識が見える。
◾ 取材担当:木浦亮斗の感想
「変えるものは根こそぎ変える」「変えないものは絶対に変えない」という二刀流の経営哲学に、タビオの強さの秘訣を見た気がしました。多くの企業が「伝統を守る」か「革新を起こす」かの二択で悩む中、越智社長は両方を明確に使い分けています。特に「7年サイクルで大きく変える」という具体的な数字が印象的でした。就活生にとっても、自分の中で「絶対に譲れない軸」と「柔軟に変えていい部分」を分けて考えることの重要性を学べるエピソードだと思います。
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学生へのメッセージ:「あるがままで就活して、それを認めてくれる会社は必ずある」
最後に、就活生へのメッセージを越智社長に伺った。
「学生のうちにやっておいた方がいいことは、たくさんあります。まずアルバイトを色々な業種で経験した方がいい。私自身、印刷業、シール貼り、ロイヤルホストでの接客、ビデオレンタル、シャープでの製造と、様々な経験をしてきました。物づくりからサービス業まで、様々な働く人たちに触れたことは非常に良かったと思います」
そして、社会人になることへの考え方についても語ってくれた。「学生時代は苦手な科目も全部やらなければならない。でも社会人になったら、自分の得意分野で勝負すればいい。三笘選手がセービングの練習をする必要はないのです。社会人になったら、その能力を見出してくれた会社で、その能力を発揮すればいい」
「自分の強みが分からないという人も多いですが、実は周りの友達は全員知っています。親友に『俺ってどんなタイプ?』と聞いてみてください。親友にはお世辞を使う必要がないので、まんまありのままのことを言ってくれると思いますよ」
就活の面接についても、越智社長は率直なアドバイスをくれた。「今の採用では学歴をあまり見なくなってきています。バイト歴や専攻、職種によっては資格を見ることもありますが、基本的には個人の性格やパーソナリティが重要です。暗いなら暗いなりの面白さをいかに出すか。本当に『あるがまま』で就活して、それを認めてくれる会社は必ずあると思います」
「面接の時に嘘の自分を演出すると、会社は間違った部署に配属してしまいます。そうするとお互いにハッピーじゃない。大学や高校が色々なテクニックを教えてきますが、『あるがまま』が一番今の面接では良いと思いますよ」という言葉で、越智社長はインタビューを締めくくった。
◾ 取材担当:木浦亮斗の感想
「あるがままで就活して、それを認めてくれる会社は必ずある」という言葉が、今回の取材で最も印象に残りました。就活では「自分をよく見せなければ」というプレッシャーを感じがちですが、越智社長は「それが逆効果になる」と明確に指摘されています。また、「自分の強みは親友に聞け」というアドバイスは、すぐに実践できる具体的な方法です。20年間社長を務めてきた方が「役職はただのポジション」と言い切る姿勢から、仕事の本質とは何かを深く考えさせられた取材でした。就活生の皆さんには、ぜひ「あるがまま」の自分を大切に、就職活動に臨んでいただきたいと思います。