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【前田源商店】創業105年の織物会社3代目が語る「自分の言葉で話せ」という信念と家族経営の強さ

2026年06月18日

株式会社前田源商店

【前田源商店】創業105年の織物会社3代目が語る「自分の言葉で話せ」という信念と家族経営の強さ

◇企業紹介◇
株式会社前田源商店は、大正10年(1921年)に山梨県で創業した織物製造業の老舗企業です。創業当初は洋服の裏地や傘の生地を製造していましたが、2代目の時代にインテリアカーテンや壁紙の生地へと転換。現在3代目の前田市郎社長のもと、約30年前からオーガニックコットンに特化した織物・製品の製造販売を手がけています。自社ブランドによる直接販売を展開し、山梨大学やテレビ山梨など地元企業・教育機関のオリジナルグッズも製作し、独自性の高い商品開発でも知られています。今回は前田市郎社長に、創業105年の歴史を受け継ぐ覚悟と、次世代へのメッセージについてお話を伺いました。取材担当は石嵜渉です。

「長男だから」という洗脳から始まった——3代目が歩んだ継承への道

私は幼い頃から「長男だから」という理由で、両親から家業を継ぐことを前提に育てられました。「幼い頃から自然と家業を継ぐものだと思って育ってきました」と前田社長は当時を振り返ります。大学卒業後、すぐに家業に入るのではなく、まずは関連のある繊維商社で4年間のサラリーマン経験を積みました。

興味深いのは、その会社で配属されたのが営業ではなく、コンピューターのプログラミング部門だったことです。当時はまだオフィスコンピューターの時代。COBOLに近い言語を学び、SE(システムエンジニア)のような仕事も経験しました。「たまたまさせられた仕事」と謙遜しますが、この経験が後の経営において大きな財産になったと言います。

「あの時のプログラミングの経験は、今の考え方に関してとても良かったなと思っています」と前田社長は語ります。論理的思考や仕組みを構築する力は、伝統産業においても不可欠なスキルです。1年間の営業経験を経て、26歳で山梨に戻り、家業に入りました。

現在、代表に就任してから約15年。創業105年の老舗を率いる重責を担いながら、オーガニックコットンという新たな価値を織物産業に吹き込んできました。繊維商社での経験、特にデジタルの基礎を学んだことが、時代の変化に対応する柔軟性を養ったのかもしれません。

◾ 取材担当:石嵜渉の感想

「自然と家業を継ぐものだと思って育った」という言葉に、家業を継ぐことへの複雑な心境が垣間見えました。しかし、それを恨むのではなく、サラリーマン時代の「偶然の配属」すら前向きに捉えている姿勢が印象的です。就活において「配属ガチャ」を恐れる学生は多いですが、どんな経験も将来の糧になるという視点を持つことの大切さを学びました。家業を継ぐかどうか迷っている学生にとって、この「一度外に出て経験を積む」というキャリアパスは参考になるのではないでしょうか。

石の上にも三年——新たな価値を生み出すまでの苦闘

経営者として最も厳しかった時期について尋ねると、前田社長は「取引先の変化」を挙げました。繊維業界は時代の変化によって、扱う商材も取引先も大きく変わります。主要な取引先が撤退したり、業界の構造が変化したりする中で、新たな販路を開拓しなければならない局面が何度もあったと言います。

「売上は下がるけども、新たなところを探さなきゃいけないので、それが本当にきつかった」と当時を振り返ります。しかし、前田社長はここで諦めませんでした。「昔の人がよく言う『石の上にも三年』ということは本当にあって、新たな価値を作るのにはやっぱり3年はかかる」という言葉通り、粘り強く新規開拓を続けました。

経営面では、先代からの借入金を返済しながら事業を継続するという二重の負担もありました。「借りたお金っては必ず返さなきゃいけない。借金っていうのは良いことなんだけども、過度に借りると悪になる」と前田社長は語ります。運転資金や設備資金として借入れは経営に不可欠ですが、その返済が経営を圧迫することも身をもって経験したのです。

こうした苦難を乗り越え、前田社長は約30年前からオーガニックコットンという新たな領域に舵を切りました。3年以上農薬を使用していない畑で収穫された綿花を使った織物は、当時はまだ珍しいものでした。「ESGの考え方も、SDGsの考え方も、私たちはそれよりもずっと昔から実現してきた」と前田社長は胸を張ります。時代を先取りした取り組みが、今になって企業価値として認められるようになったのです。

◾ 取材担当:石嵜渉の感想

「石の上にも三年」という古い言葉が、100年企業の経営者から語られると説得力が違います。新規事業や新たな価値を生み出すには3年かかるという現実は、すぐに結果を求めがちな現代において重要な教訓です。また、ESGやSDGsが流行語になるずっと前からオーガニックに取り組んでいたという事実は、「流行を追う」のではなく「本質的に正しいことをする」姿勢の大切さを示しています。就活においても、短期的な評価ではなく、長期的な視点で自分の価値を高める努力が必要だと感じました。

家族5人で回す経営——モチベーションが違う組織の強さ

前田源商店は、前田社長を筆頭に、弟が専務、奥様、そして息子夫婦の5人で経営を行う典型的な家族経営企業です。新卒採用も中途採用も行っておらず、すべての業務を家族だけでまかなっています。

「普通の会社に比べて、モチベーションがめちゃくちゃ高いです」と前田社長は語ります。「一人一人の意識が高いので、『仕事してくださいね』とか、『業務がこれだからこうしてくれ』とか、あまり言わなくていい。そういう意味では精神的には楽ですね」という言葉には、家族経営ならではの強みが凝縮されています。

自分たちの仕事であり、自分たちの会社である。その当事者意識が、一般的な雇用関係では得られない高いモチベーションを生み出しているのです。しかし、家族経営にも課題があります。前田社長が指摘するのは、繊維産業全体が直面している「高齢化と廃業」の問題です。

「今のうちの問題点は、繊維産業どこでもそうなんですけど、高齢化と廃業が多かったりして物が作れなくなってきてる時代になってきてるんです」と前田社長は危機感を示します。山梨県内だけでは生産が追いつかず、他産地の同業者と協力して織物を作ることもあるそうです。

「今後は日本全国が1つの産地になるような、そういう業界になっていくと思います」と前田社長は予測します。企画や設計は山梨で行い、織りは他の産地で、縫製はまた別の地域で——というように、国内での分業が進んでいく未来を見据えています。家族経営の強みを活かしながら、外部との協力関係を構築していく柔軟性が、これからの時代には求められているのです。

◾ 取材担当:石嵜渉の感想

家族経営というと「閉鎖的」「古い」というイメージを持つ学生も多いかもしれません。しかし、「モチベーションの高さ」「当事者意識」という観点から見ると、むしろ最先端の組織論に近いものを感じました。大企業では「エンゲージメント向上」が課題になっていますが、家族経営ではそれが自然と実現されています。また、自社だけで完結せず、全国の同業者と連携する「オープンな家族経営」という形も、これからの中小企業の生き残り戦略として参考になるのではないでしょうか。

価格決定権を握る——OEMから自社ブランドへの転換

前田源商店の販売ルートは多岐にわたります。生地を卸売りする法人向け販売、インターネットを通じた個人への直接販売、そして製品の卸売り。しかし、最も重要な転換点は「OEMから自社ブランドへの切り替え」だったと前田社長は語ります。

「ここの地域は元々OEM産業、つまり相手先のブランドでいろんなものを作ってきた産地なんです」と前田社長は説明します。OEMとは、他社ブランドの製品を受託製造することです。安定した受注は見込めますが、価格は発注元が決めるため、利益率が低くなりがちです。

前田社長がオーガニックコットンの製品を手がけ始めた頃から、すべて自社のオリジナルブランドで販売する方針に切り替えました。「価格決定権が自分にあるので、非常にそこはストレスじゃないですね」と前田社長は語ります。もちろん、売れるか売れないかの責任もすべて自分に帰属します。しかし、自分で作ったものを自分で売る——その一貫性が、仕事のやりがいと経営の自由度を高めているのです。

具体的な商品としては、山梨大学や山梨学院大学のオリジナルグッズ、テレビ山梨の企業名入りハンカチなど、地元企業や教育機関との協業で生まれたものが数多くあります。

「こういうものをお使いいただくことによって、その企業や学校も『SDGsに貢献している』というアピールができる。そういうお手伝いができるのかなと思っています」と前田社長は自社の存在価値を語ります。単に製品を売るのではなく、顧客の企業価値向上に貢献するという視点が、105年続く老舗の矜持を感じさせます。

◾ 取材担当:石嵜渉の感想

「価格決定権」という言葉が強く印象に残りました。就活生の多くは「安定した大企業」を志望しますが、その「安定」の裏には「価格決定権がない」というリスクも潜んでいます。下請け体質から脱却し、自社ブランドで勝負するという選択は、リスクを取る覚悟がなければできません。しかし、だからこそ「ストレスがない」という言葉が出てくるのでしょう。キャリアを考える上で、「誰が価格を決めるのか」「誰が価値を決めるのか」という視点は、就活においても重要な判断軸になると感じました。

学生へのメッセージ——「自分の言葉で話してください」

前田社長は山梨県立大学で毎年講義を行い、学生たちに織物産業や自身の経験について語っています。その講義で必ず最初に伝える言葉があります。

「必ず自分の言葉で話をしてください」——これが前田社長から学生たちへの最も重要なメッセージです。「この本では何を言っています」だけではなく、本を読んだり、メディアの情報を聞いたりして頭の中に入ってきた情報を、必ず自分の中で咀嚼して、自分の言葉として発してほしい。そうしないと、その情報自体が薄っぺらいものになってしまうと前田社長は語ります。

「『この人がこういうこと言ってたけど、私はこう思う』という形の論点で持っていくと、深みも出てくるし、その人の考え方も入ってくる」と前田社長は続けます。他人の意見をそのまま鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考え、自分の言葉で表現する。それができる人間になってほしいという願いが込められています。

また、「あなたは何がしたいんですか」と聞かれて答えられない若者が多いことも、前田社長は気にかけています。人の評価を気にしすぎず、自分が本当にやりたいことを見つけ、それを言葉にできる人になってほしい。そして、「自分でなんでもいいから作り出してほしい」とも語ります。物作りの会社を経営する前田社長だからこそ、何かを創造することの価値を強く感じているのです。

今年で70歳を迎える前田社長ですが、AIやSNSといった新しい技術にも積極的に向き合っています。「AIに馬鹿にされないように頑張っています」と冗談交じりに語る姿からは、変化を恐れず学び続ける姿勢が伝わってきます。105年の歴史を持つ老舗の経営者が、70歳になっても新しいことに挑戦し続けている。その姿こそが、若者への最大のメッセージなのかもしれません。

◾ 取材担当:石嵜渉の感想

「自分の言葉で話す」という教えは、就活の面接対策としても、その後の社会人人生においても極めて重要だと感じました。就活では「企業研究をして、その企業が求める人物像に合わせた回答をする」ことが推奨されがちですが、それでは「薄っぺらい」人間になってしまう。情報を咀嚼し、自分の意見として発信できる人間こそが、長いキャリアの中で信頼を勝ち取れるのだと思います。また、70歳でAIに挑戦し続ける前田社長の姿勢からは、「学びに年齢制限はない」というメッセージも受け取りました。この取材を通じて、自分自身の言葉で語れる人間になりたいと強く思いました。