◇企業紹介◇
株式会社秀岳荘は、昭和30年に北海道札幌市で創業した老舗アウトドア専門店です。前身はテント屋で、北海道大学山岳部の依頼を受けてザックやテントを製作したことがきっかけとなり、登山用品店へと発展しました。現在は札幌を中心に店舗を展開し、年間売上高約20億円を誇るオーナー企業としては日本最大級の総合アウトドアショップへと成長しています。今回は3代目社長・小野氏に、学生団体GOATの石嵜がお話を伺いました。玉ねぎ農家の息子として生まれ、サラリーマンを経て経営者となった小野社長が語る「地域密着経営」と「失敗を恐れない生き方」。就活生の皆さんに、働くことの本質と人生の歩み方について深く考えるきっかけをお届けします。

妻との出会いが人生を変えた瞬間
小野社長は北海道の小さな町、訓子府町で玉ねぎ農家の5人兄弟の4番目として生まれました。JRの駅から5kmも離れた場所で、鹿や狐、時には熊も出るような大自然の中で育った少年時代。「社長になるなんて夢にも思っていなかった」と振り返ります。
大学進学を機に札幌へ移り、卒業後は数年間サラリーマンとして勤務しました。転機が訪れたのは、大学時代のサークルで出会った後輩との結婚でした。その後輩こそ、秀岳荘2代目社長の次女だったのです。
「転職する時には『社長の娘と結婚した男』という目で見られました。『あいつは誰だ』というアンチみたいな空気はたっぷりありましたね」と小野社長は当時を振り返ります。
しかし、そこで腐ることなく、先輩社員に教えを請いながら一緒に山へ登り、一つひとつ知識と経験を積み重ねていきました。店長、取締役、専務と着実にステップを踏み、14年前についに3代目社長に就任。農家の息子から北海道を代表するアウトドアショップの経営者へ。その道のりは決して平坦ではありませんでしたが、「周囲の目を気にせず、やるべきことをやり続けた」結果でした。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「社長の娘と結婚した男」というレッテルを貼られながらも、愚直に学び続けた小野社長の姿勢に胸を打たれました。就活でも「コネ入社」や「縁故採用」という言葉がネガティブに使われることがありますが、結局は入社後にどれだけ努力できるかが全てなのだと気づかされます。どんな経緯で入社しても、実力で認められるまで諦めない姿勢こそが、キャリアを切り拓く鍵なのではないでしょうか。

経営者の悩みは「人とお金」である。70人の社員と向き合う覚悟
小野社長は中小企業家同友会という経営者の学びの場に所属しています。全国で約4万7000人、北海道だけでも約5500人の社長が参加するこの会で、小野社長は札幌支部約1800人のトップである支部長を務めていました。
「社長の悩みってたった2つしかないんですよ。人とお金しかないんです」と小野社長は断言します。どうしたら社員に長く勤めてもらえるか、どうしたらスキルを上げてもらえるか、どうしたらモチベーションを高く保ってもらえるか。経営者として毎日考えるのは、結局この「人」に関することばかりだと言います。
そしてお金の問題も、突き詰めれば「人」に帰結します。売上を作り、利益を生み出してくれるのは従業員であり、その従業員が接するお客様もまた「人」。地域に根ざした商売を続けるためには、従業員・お客様・地域の人々という「人」との関係性をいかに良好に保つかが全てなのです。
「大企業とは違いますから、中小企業にすごくいい人材がたくさん集まるということはまずありえない」と小野社長は現実を直視します。だからこそ、入社してくれた社員をいかに「秀岳荘らしく」育てていくかにポイントを置いているのです。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「経営者の悩みは人とお金である」という言葉のシンプルさに驚きました。しかし、そのシンプルな2つの悩みの奥深さは計り知れません。就活生として企業を見る時、「この会社は社員のことをどれだけ考えているか」という視点を持つことの大切さを学びました。福利厚生の数字だけでなく、経営者が「人」についてどう語るかを聞くことで、その会社の本質が見えてくるのかもしれません。

ネット時代に「わざわざ来たい店」を作る。社員が山に行く独自戦略
年間売上高20億円のうち、ネット通販は約3億円。残りの17億円はリアル店舗での売上です。ネット販売全盛の時代に、なぜ秀岳荘は実店舗でこれほどの売上を維持できているのでしょうか。
「今、実店舗はショールーム化しているんです。お客様は物を確かめに来る。だからこそ、マニュアルにも書いていない、ネットにも載っていないことを店員が案内できれば、お客様は驚いてくれる」と小野社長は語ります。
その「ネットに載っていない情報」を得るために、秀岳荘では独自の制度を設けています。社員が山に登る際の交通費やガソリン代を会社が補助するのです。例えば札幌から知床まで往復900km、高速代とガソリン代で約2万円。この費用を福利厚生として支給する代わりに、社員はブログを書いて情報発信します。
「あそこはどんな山なんですか」と聞かれた時、ネットで調べた情報を伝えるのと、実際に登った社員が「5合目の山小屋はこうで、トイレはこうで、落石の危険はここで」と語るのでは、説得力が全く違います。そして実体験を持つ社員には、どんな質問にも答えられる自信が生まれるのです。
「その社員に会いたくて、わざわざ名指しで来店するお客様が増えていく。そうすると社員も居心地が良くなって、辞めたくなくなるんですよ」。お客様と社員の信頼関係が、そのまま店舗の競争力になる。これが秀岳荘の強さの源泉です。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「好きなことを仕事にする」とよく言われますが、秀岳荘では「好きなことをしながら仕事力を高める」仕組みが制度として整備されていることに感銘を受けました。山に登れば登るほど接客力が上がり、お客様に指名されるようになり、仕事が楽しくなる。この好循環を意図的に設計している点が、70年続く老舗の知恵なのだと感じました。就活において「やりたいこと」と「できること」の両立に悩む学生は多いですが、このような仕組みを持つ会社を探すことも一つの答えかもしれません。

学生へのメッセージ:「意外とみんな見ていない。だから何をやってもいい」
最後に、若者へのメッセージを伺いました。
「失敗を恐れないことですね。意外と他人は自分のことを見ていない。すごく見られているような感じになると思うんですけど、意外と見てないんですよね」
小野社長自身も、20代から30代前半までは人の目ばかり気にしていたと言います。しかし年を重ねるにつれ、「なんであの頃、あんな小さいことを気にしていたんだろう」と思うようになったそうです。
「この年になると、人生の半分を折り返しているんです。悩んでいる暇はない。限られた1日、限られた1年をいかにして有意義に過ごすかを考える。若い方は『まだ50年、60年ある』と思ってのんびりしがちですが、年を取ると『あと健康でいられるのはあと少ししかない』と考えるようになる」
だからこそ、若いうちに行けるところは行った方がいい。食べられるものは食べた方がいい。見たいものは見に行った方がいい。「あの時こうすればよかった」と後悔する人を何人も見てきたからこそ、小野社長は若者に伝えたいのです。
そして最後に、こう締めくくりました。「自分の会社を良くしようと思ったら、若者が大事。若者、馬鹿者、よそ者と言いますが、新しい考え、新しい知恵は外から来る。固定観念を打ち破るのは、いつも若い人たちなんです」
◾ 取材担当:石嵜の感想
「意外とみんな見ていない」という言葉は、就活中の私にとって大きな救いになりました。面接で失敗したらどうしよう、周りの友人より内定が遅かったらどうしよう。そんな不安を抱えていましたが、結局それは自分が気にしすぎているだけなのかもしれません。小野社長のように「止まったら終わり。マグロの気持ちで泳ぎ続ける」という姿勢で、失敗を恐れず挑戦し続けたいと思います。70年続く老舗の3代目から聞いた「当たって砕けろ」の精神を、これからの就活と人生に活かしていきます。