岡山県に本社を構える大和被服株式会社は、警察官の制服や消防服などの官公庁向けユニフォームを手がける老舗縫製メーカーです。創業から4代にわたり「メイドインジャパン」の技術を守り続け、近年では廃棄消防服を再生させる「アップサイクル事業」で全国から注目を集めています。今回は、専務取締役の畑利昌氏に、学生団体GOATの石崎がインタビュー。家業を継ぐまでの葛藤、国内縫製業の現状と未来、そして若者へのメッセージについて伺いました。サラリーマンとして働いた後、30歳で人生の岐路に立たされた畑氏が語る「続けることの価値」とは何か。就活生の皆さんに、ぜひ読んでいただきたい内容です。

「継ぐ気はなかった」。100人全員が反対した中での決断
大和被服は、畑氏の曾祖父が創業した会社です。順調にいけば畑氏が4代目となる立場でしたが、幼少期から家業を継ぐことは全く考えていなかったと言います。
「小さい時から父親には『絶対に継ぐな』と言われ続けていました。縫製業はもう明るくない、自分で生きる道を見つけろと。だから大学卒業後も、継ぐという選択肢は自分の中に1mmもなかったのです」
畑氏は関西の大学を卒業後別の会社に就職。そこから約10年間、サラリーマンとして働きました。すると突然、父親から電話がかかってきたのです。
「普段は全然連絡もしない父から電話が来て、『誕生日おめでとう』と言ってくれるのかなと思って出たら、開口一番『決めてくれ』と。継ぐのか、継がないのか。父も当時60歳くらいで、僕が継がないなら会社をどうするか決めなければならない時期だったのです」
それまで縫製業界のことを全く知らなかった畑氏は、周囲の人々に「この業界は将来どうなるのか」と聞いて回りました。しかし、返ってきた答えは予想以上に厳しいものでした。
「100人に聞いて、100人全員が『絶対ダメだ』と言ったのです。自分が着ている服にメイドインジャパンがあるか確認してみろと言われて、実際に1つもなかった」
普通であれば、ここで諦めるところでしょう。しかし、畑氏の心には逆の火がつきました。
「みんながダメだダメだと言うなら、逆にやってみたい。そう思ったのです。何ができるかは分からないけれど、誰もやらないことに挑戦したい。そして電話から1年後の4月、31歳で入社しました」
◾ 取材担当:石崎の感想
「100人全員が反対した」という言葉の重みに、思わず息を呑みました。普通であれば、専門家や先輩の意見に従って諦めるのが「賢い選択」とされる場面です。しかし畑氏は、その状況をむしろ「挑戦する理由」に変えました。就活においても、周囲の評価や一般論に流されず、自分の直感を信じる勇気が必要な場面があります。畑氏の決断は、「正解がない時代」を生きる私たち若者にとって、大きなヒントになると感じました。

現場で学んだ3年間。縫製の楽しさに目覚めた「DNA」の覚醒
入社当初、畑氏が直面したのは想像以上に厳しい現実でした。父親が活躍していた時代と比べ、仕事量は約3分の1にまで減少。新規の仕事を獲得しようにも、国内で制服を着用する業種自体が減っていたのです。
「入社してすぐ『厳しいな』というのが第一印象でした。自分の選択を疑う瞬間も正直ありました。でも、もう決心して帰ってきたので、まずは現場を知ることから始めようと」
畑氏は最初の3年間、経営ではなく一人の縫製工として現場で働きました。ミシンの使い方、生地の扱い方、製品の検品。全くの素人だった畑氏が、文字通りゼロから技術を学んでいったのです。
「不思議なことに、やっていくうちに楽しくなってきたのです。DNAなのでしょうか。手を動かして物を作る、その過程が純粋に楽しかった。そして、自分自身が楽しいと感じられるようになってから、周りの雰囲気も変わり始めました」
畑氏のスタイルは「上から指示を出す」のではなく「一緒にやろう」というもの。この姿勢が、長年変化のなかった現場に新しい風を吹き込みました。
「僕は一緒になって働きたいタイプなのです。そうやって続けていたら、入社当時に比べて徐々にみんなが積極的になってきた。元気が出てきたのを自分の肌で感じる瞬間があって、そこから仕事に魂が入りました」
現場経験があるからこそ、語る言葉に説得力が生まれる。畑氏はそのことを身をもって理解しています。
「やったことない人にあれこれ言われるより、実際にやっている人から言われた方が腹落ちするでしょう。自分自身が縫製の楽しみを経験しているからこそ、それを周りに伝えられる。そしてそれが伝播していく。これが、元気がなくなった縫製業を盛り上げる方法なのだと、自分の中で見つけました」
◾ 取材担当:石崎の感想
「経営者が現場を知る」ことの重要性は、よく語られます。しかし、31歳から3年間も現場に入り続けた経営者は、そう多くないのではないでしょうか。畑氏が「一緒にやろう」というスタンスを貫けるのは、自分自身が現場の苦労を知っているから。この姿勢は、新入社員として会社に入る私たちにとっても学ぶべき点です。まずは現場を知る。そこから信頼が生まれるのだと、改めて感じました。

毎年新卒採用に成功する秘訣。「足で稼ぐ」泥臭いリクルート戦略
縫製業界は深刻な人手不足に悩まされています。多くの工場がベトナムや中国からの技能実習生に頼る中、大和被服は異例の状況にあります。全従業員の3分の1が20代という若い組織を実現しているのです。
「毎年2人くらい、新卒で入ってきてくれています。ここ数年、ゼロという年はありません。そして、うちには技能実習生がいないのです。受け入れる必要がなく、日本人の若手だけで回せている」
同業他社からは「どうやって採用しているのか」と頻繁に聞かれるそうです。しかし、畑氏は「特別なことはしていない」と言い切ります。
「ハローワークやIndeedは使っていません。僕がやっているのは、地元の専門学校や大学、短大を直接回ること。若い世代は、知っている会社にしか興味を持ちません。だったら、まず知ってもらうことから始めないと」
畑氏は自ら学校に足を運び、会社説明をさせてほしいとお願いして回りました。
「『岡山県で警察の制服を作っている会社があるのですか』と、まずみんな驚きます。そこを入り口に、AIの時代でも人間がやる仕事として重宝される技術があること、こういう未来があるということを伝えるのです」
「人がいないと嘆いている人は、楽をしようとしているだけ。困っているなら自ら動かないと何も変わらない」と畑氏は断言します。
その努力が実を結び、今では先輩社員が母校の後輩を呼んでくれるという好循環が生まれています。畑氏自身が学校を回る必要がなくなったほどです。
SNSの活用にも積極的です。InstagramやXのアカウントは若手社員に任せ、会社の日常を発信しています。
「僕自身はストーリーズとか、正直よく分かりません。でも、若い子に任せて、面白いと思ったことを上げてもらっています。ただし、目的だけは絶対に忘れるなと伝えています。バズらせることが目的じゃない。大和被服という会社を知ってもらい、一緒に働きたいと思う人を増やすことが目的なのだと」
◾ 取材担当:石崎の感想
採用に苦戦する企業が多い中、「自ら学校を回る」という泥臭い方法で成果を出している畑氏の姿勢に、本質を見た気がしました。採用活動も、結局は「人と人との出会い」。媒体に頼るのではなく、自分の足と言葉で伝えるからこそ、響くものがあるのでしょう。就活生の立場から見ても、こうして直接会いに来てくれる経営者の会社には、信頼を感じます。

廃棄消防服から防災グッズへ。全国初の「アップサイクル事業」が生まれた背景
2021年、世の中でSDGsという言葉が急速に広まり始めた頃。大和被服のもとに、ある相談が舞い込みました。
「岡山市消防局の担当者から連絡があったのです。上からSDGsに貢献する取り組みを考えろと言われているが、廃棄する消防服をなんとか活用できないか、と」
消防服は特殊な素材でできており、燃えないため通常のゴミとして処理できません。産業廃棄物として埋め立て処理するには多額の費用がかかり、予算がないまま段ボールに入った廃棄消防服が山積みになっている消防署が全国に存在していました。
「最初は営業の一環として始めたのです。お客様である消防局に恩を売っておけば、後で別の仕事につながるかなという下心もありました」
畑氏は消防服の素材に着目しました。燃えにくく、耐久性が高い。この特性を活かせば、防災製品として生まれ変わらせることができるのではないか。
岡山市消防局と共同で、廃棄消防服から防災頭巾を製作し、地域の小学校に寄付する取り組みを始めました。これが全国初の事例としてメディアに大きく取り上げられ、想定外の反響を呼んだのです。
「全国の消防署から一気に問い合わせが来ました。うちも困っている、取ってくれ、一緒にやらせてくれと。廃棄消防服の処理は、全国共通の課題だったのです」
同時期、大和被服の主力製品である警察制服にも変化が起きていました。気候変動により春と秋が短くなり、「合服」と呼ばれる春秋用の制服が各都道府県で廃止され始めたのです。売上の一部が消える危機に、畑氏は新事業への本格参入を決断しました。
2023年にはECサイトを立ち上げ、アップサイクル製品の一般販売を開始。出品するたびに即完売という状況が続いています。さらに昨年からは、警察制服のアップサイクルにも着手しました。
「この取り組みについて、特許は取っていません。取る気も全くありません。難しい技術で独占すると、うちだけが生き残ることになる。それは嫌なのです。簡単な技術で、どこでもやろうと思えばできることをやっている。うちが成功して儲かっていると分かれば、全国の縫製工場がやり始める。そうすれば業界全体が盛り上がるでしょう」
◾ 取材担当:石崎の感想
「特許を取らない」という選択に、畑氏の哲学が凝縮されていると感じました。自社の利益だけでなく、業界全体を見据えた視点。斜陽産業と言われる縫製業において、こうした発想ができる経営者は稀有だと思います。社会課題の解決とビジネスを両立させる姿は、これからの時代を生きる私たちが目指すべき方向性を示しているように感じました。

「続けることだけが、未来を作る」畑氏が若者に伝えたいこと
インタビューの最後に、就活を控える若者へのメッセージをお願いしました。畑氏は「偉そうなことを言う立場ではない」と前置きしつつも、自身の経験から得た確信を語ってくれました。
「若いからどう、年だからどう、という考え方を僕は持っていません。若いからこそすごいところは絶対にあるし、経験がないからこそ気づけることもある。だから遠慮することはないと思います」
ただし、畑氏が最も強調したのは「続けること」の重要性でした。
「何でも続けると、続ければ未来ができてくる。続けないやつには、何も変えられないのです。毎日1分でもいいから続けると、1年間ではものすごい量になる」
5年後、10年後の具体的な計画を持たないという畑氏。しかし、それは無計画とは違います。
「未来は誰にも分からない。目標を超えられなかったらどうするのかと聞かれても、僕には答えがありません。それよりも、今やっていることを続けて、面白いと思うことがあればすぐにやる。それを1本、2本、3本と増やしていく。それがこの業界で生き残る術だと思っています」
若い従業員に対しては、「頑張りすぎないこと」を伝えているそうです。
「頑張って頑張って、というのは続かないのです。1週間頑張り続けるのは、僕でもしんどい。それよりも、無理のない範囲のことを毎日コンスタントにやり続ける方が、よほど価値が出てくる。毎朝10分の読書を1年間続ける。そういうことの方が、今となってはすごく重要だと思います」
最後に、畑氏は20代の自分に伝えたい言葉として、こう締めくくりました。
「体力があるとがむしゃらに何でもやりたくなる。それも大事。でも本当に大事なのは、毎日続けられる何かを見つけること。やり切れば、誰も文句は言わないのですから」
◾ 取材担当:石崎の感想
「続けること」というシンプルなメッセージに、畑氏の12年間が詰まっていると感じました。100人に反対されても継ぐと決めた覚悟、3年間現場で働き続けた忍耐、毎年学校を回り続けた地道さ。すべてが「続ける」という行動で貫かれています。就活では華やかな実績やスキルに目が行きがちですが、本当に大切なのは「続けられるかどうか」なのかもしれません。私自身も、毎日小さなことを続ける習慣を、今日から始めてみようと思いました。