
59歳、いくつもの企業からのオファーを断り選んだ理由
エコートレーディング株式会社 の代表取締役社長・豊田実氏は、日清製粉で役員を務めた後、59歳でヘッドハンティングを受けてこの会社に転身した。当時、23社からオファーがあった中で、大阪本社のペット用品商社という、自身の経験とは全く異なる分野を選んだ理由は、創業者との出会いにあった。
面談の前に有価証券報告書を5年分チェックし、勝手に次期中期経営計画を作成して持参した豊田氏に対し、創業者はこう語った。「今日は私があなたを見ているのではなく、あなたがうちの会社をどう見ているかだと思います。あなたにとって合格ならば、是非一緒にやりませんか」。
当時赤字体質だった会社を、7年かけて売上1000億円の黒字企業へと立て直した。この再建には、コスト構造の見直しや取引先との関係強化・企画企業への改革など、地道な改革の積み重ねがあった。
企業を選ぶ際、「待遇」や「安定性」だけでなく、「自分がその会社で何を成し遂げたいか」を考えることの重要性が、豊田氏の決断から伝わってくる。

幼少期のトラウマを経て「目に入れても痛くない存在」へ
実は豊田氏は、幼少期に犬に噛まれたトラウマから犬が苦手だった。ペット業界の社長としては致命的とも言える事実である。しかし、妻から「あなたがペット嫌いじゃ話にならない」と言われ、日曜日にペットショップへ通い始めた。
6年前、トイプードルと暮らし始めてからは、「目に入れても痛くないほど可愛い」と語るまでに変わった。オキシトシンという幸せホルモンが人間側からもペット側からも出ることを知り、ペットを「人生のパートナー」と呼ぶようになった。
「飼育者という言葉も好きではない。同居人であり、マイベストパートナーである」。10年かけて、犬が苦手だった経営者は「世界中の人々とペットの笑顔を創造する企業」というビジョンを心から語れるようになった。苦手なものを克服するには時間がかかる。しかし、変わろうとする姿勢を持ち続けることが、真の成長につながるのである。

「正直者しか勝ち残れない」インテグリティの哲学
経営で最も大切にしていることは「インテグリティ」、つまり誠実さ・正直さ・真面目さである。豊田氏は小学校の先生から教わった「嘘をつくな」という言葉を座右の銘としている。
「1つ嘘をつくと、その嘘を隠すためにまた嘘をつかなくてはいけない。そうすると何が本当か分からなくなってしまう。正直者しか勝ち残れない。」
このインテグリティに加え、イノベーション(革新)、インスパイア(人の心に火をつける)、イニシアティブ(業界を引っ張る気概)の4つの「I」を掲げ、「MI4」という全社運動を展開している。「ミッションインポッシブル」のように不可能を可能にする集団を目指すこの取り組みでは、毎月の全社会議で各部門がMI4に基づく改善提案を発表し、優れた取り組みを表彰する仕組みを設けている。この活動を通じて、社員一人ひとりが自律的に業務改善に取り組む風土が醸成されてきた。

差別化ではなく「独自性」を追求せよ
豊田氏は「差別化」と「独自性」の違いを明確に区別する。差別化とは比較対象があるもの、例えば「10分間ダイエット」に対して「7分間ダイエット」が出てくるような競争である。飛行機のリクライニングシートを例にすれば、1社が10cm倒せるシートを開発すると、競合は12cm、15cmと追随する。
しかし最終的には物理的な限界に達し、マイナスに陥ってしまう。
一方、独自性(ディファレント)とは比較するものがない、その企業だけの価値である。エコートレーディング株式会社では、ペットフードの原材料トレーサビリティを業界に先駆けて導入し、「どこで誰が作ったか」を明確にする取り組みを進めている。「誰にも真似されないことを、真面目にやり続ける」ことが企業経営の本質だと豊田氏は語る。
知識をキャッチアップするだけでは不十分で、自分の頭で知恵に変換し、見識、そして覚悟にまで昇華させて初めて独自性が生まれる。就活においても、他の人と同じ土俵で競うのではなく、自分だけの強みを見つけることが重要である。

若者へのメッセージ「本を読め、変化を作る側に立て」
若いうちにやっておくべきことを問うと、豊田氏は迷わず「本を読むこと」と答えた。「本を読む人にしか分からない世界がある。その人の発想はその人が持っているボキャブラリー以上に広がらない」。
読書のコツとして、良いと思った箇所に線を引き、自分でまとめ、人に話すことを勧める。目で見たものが脳でトランスレートされ、口から出た瞬間に自分のものになるという。
そして最も重要なのは「自分は何も知らないということを常に知っていること」。本を読めば読むほど謙虚になり、無知の知を実感する。
転職市場についても独自の見解を持つ。「変化を創った側が面白い。作られる側でおもちゃにされるのではなく、創る側に立った方が楽しい」。自ら変化を創り出す人間になることを、若者に強く勧めている。
エコートレーディング株式会社 は「世界中の人々とペットの笑顔を創造する」というビジョンのもと、2030年までにアジア市場への本格進出を計画している。豊田氏は「ペットと人間の共生社会を実現する企業として、次の10年でさらなる成長を遂げたい。その未来を一緒に創る仲間を待っている」と語り、インタビューを締めくくった。