
異色の事業構造:海運(船主業)・宿泊・不動産の複合経営の実態
この地区、今治では海運、我々が「船主業」と呼んでいる事業が盛んです。数から言えば、今、200社ぐらいあります。我々船主業は、船を所有して、それに船員を我々の責任で乗船させて、大手の船会社に貸し付けるビジネスです。ただ単にリース会社みたいなものではなく、有資格で適格に業務をこなせる船員を我々の責任で乗船させ、事故やトラブルを起こさないようにしなければなりません。
あとは、船のメンテナンスもきっちりとしていないとトラブルが起こることがあります。トラブルが起こって船が動かなくなったり、人的ミスで事故を起こすと、船の貸し料である傭船料が、現状復帰するまで止まってしまいます。例えば、1日8000ドルで貸したとすると、トラブルの修復に3日間かかると、2万4000ドルが入ってこなくなります。だから、事故もトラブルも起こしてはだめなのです。我々の役割は、荷物がある港から港へ安全に航海させ、エンジントラブルなどを起こさないようにスムーズに船を動かすこと、そして傭船者の指示に従って動かすことです。
事業は、この船主業が圧倒的な本業です。その他に、賃貸マンションも持っているので不動産業もやっていますし、今治プラザホテルの宿泊業もあります。私は父親が立ち上げた会社を継いだ2代目です。当初、東京での暮らしが向かないなと感じたので「家に帰るか」ということにしたのですが、帰ってきたらあまり会社の状態は良くなかったのです。ただ、帰ってきたからには責任があるんで、もう逃げられないという覚悟が生まれました。
経営体制は非常にコンパクトにまとめています。船絡みで言えば、従業員は3名です。船員は外部の専門会社に委託(アウトソーシング)しています。ホテルの方は正社員が7名、パートが20名ぐらいです。宴会がない典型的なビジネスホテルなので、フロントの受付と朝食の準備、部屋の清掃が主な業務です。不動産管理は、その3名のうちの1名が担当していて、ほとんどを管理会社に任せています。このように巨額の資金が動く事業をコアに持ちながら、少数精鋭で効率的な経営を実現しています。
取材担当者(石嵜渉)の感想
船主業というグローバルで大規模な事業をメインに展開されているという事実に大変驚きました。船を所有し、船員やメンテナンスに責任を持つ「船主業」というモデルは、単なるリース業とは異なり、高い専門性と安全管理が求められます。また、1隻あたり数十億円という巨額の船を動かす事業を、わずか3名の従業員で回しているというコンパクトな経営体制は、外部資源の活用(アウトソーシング)と効率化を徹底されている証拠だと感じました。


経営者としての覚悟と決断力、そして銀行からの信用
約30年間経営をしてきて、何よりも大事だと気づいたのは覚悟と決断力です。新しい船を建造する時に「どういう船を作るか」という決断には、大きな覚悟が必要です。外航船の場合、一隻あたり30億から50億ぐらいの値段がします。どういう船を作るかという決断力。あるいは、契約が切れた後に船をどのような傭船先にするか、最終的に中古船として売却するタイミングをどうするか。常に決断を迫られます。
そして、この巨額の資金を動かす事業において、一番大事なのは、もちろんお客様である傭船者とのお付き合いもそうですが、銀行からの信用です。普通の感覚とは違う借入金の額になりますので、信用がないとお金を貸してくれません。新しい船を建造する際、自己資金と合わせて銀行から借り入れを行う必要があるため、信頼を得ることが最も重要になってきます。
さらに、為替リスクや金利リスクなど、外的要因に対する戦略的な判断も欠かせません。我々の収入はドル建てですが、借り入れを円にしていると、円高になると大変不利になります。また、海運マーケットは波が非常に激しい(ボラティリティが高い)業界であり、マーケットのリスクにも常にさらされます。そうした外的要因に振り回される中で、銀行から信頼を得ていると、少々業績が悪くなっても、理解を示し、色々と協力してくれるという融通が効く関係を築くことができます。
取材担当者(石嵜渉)の感想
経営者が抱える決断の重圧を、何十億円もの船の建造や売却という具体的な事例を通して聞けたことは、就活生にとって貴重な学びです。特に、決断力と覚悟が、事業を支える基盤であり、それが銀行との信用という形で会社を守るというお話は、経営における信頼構築の重要性を明確に示していました。学生には想像もできない規模のリスク管理をされている近藤社長の姿勢は、自らの人生における判断力を鍛えることの重要性を教えてくれました。


苦境を乗り越える経験:複合経営のリスクヘッジ
経営を通じて、リーマンショックとコロナ禍という二つの大きな危機に遭遇しました。リーマンショックの直前、私は古い船を売って、新しいタイプの船に入れ替えようと契約を結んでいたところでした。そこにショックが直撃し、大変な状況になりました。その後、日本は2009年から2012年頃にかけて極端な円高時代に突入し、1ドル75円まで円高が進みました。ドルで入ってくる収入が円に換算すると大きく減ってしまい、非常に苦しかったです。
また、コロナ禍では、ホテル事業が大打撃を受けました。人が全く動かなくなったため、ホテルの稼働率は月に2割、ひどい時には15%まで落ち込みました。飲食業には補助金が出たりしましたが、会社組織であるホテル経営にはほとんど補助金が出ず、非常に苦しかったです。
しかし、そのホテル事業がボロボロだった時、メイン事業である海運マーケットに奇跡が起こったのです。コロナによって世界各地で港湾作業員が不足し、陸上での作業がストップした結果、船が港で滞船するようになりました。これにより、実際に動いている船が相対的に少なくなり、運賃(傭船料)や中古船の値段が上昇しました。我々はこのマーケットの波をうまく捉えて船を売却し、そこで得た資金で息を吹き返すことができました。この経験を通じて、何が起こるか分からないからこそ、どんな事態に直面しても諦めないことが重要だと学びました。
取材担当者(石嵜渉)の感想
コロナ禍でホテル事業がほぼ機能停止に追い込まれる中、メイン事業である海運業が奇跡的に回復し、会社全体を救ったというエピソードは、複合経営が持つリスクヘッジの力を象徴していると感じました,。外部の力(マーケットの変動)に振り回されながらも、そのタイミングで「決断」を下すことができれば、悪い方向にも良い方向にも転ぶ可能性がある、という教訓は、就活生として将来のキャリアを決める上でも、諦めずに挑戦し続ける勇気をくれました。


若者へのメッセージと後継者問題:孤独な経営者が見据える未来
これから社会に出る若者には、「何にやるにしても覚悟を決めてやること」「無責任なことをしないこと」「すぐ諦めないこと」を伝えたいです。私は、東京での暮らしが向かないと感じて今治に帰ってきましたが、会社の状態が思わしくなかった時に「帰ってきたからには責任がある、もう逃げられない」という覚悟が生まれました。
企業経営をしていると、楽しみも苦しさも全て自分一人のものだと感じます。もちろん従業員の生活を守るなど他にも重要なことはありますが、最終的には全ての責任と結果を自分自身で受け入れなければなりません。常に孤独な状態なんです。だからこそ、何かを始めたい、起業したいという志があるなら、「経営は他責にはできないと覚悟を決めなさい」と伝えたいです。
現在、私が直面している最大の課題は「後継者」の問題です。娘は大手企業に勤めており、安定した生活をしている為、荒波にもまれる船主業は酷かなと考えたりもします。会社をM&Aなどで承継させるか、外部から経営できる人間を呼んでくるかなども選択肢として検討を重ねています。私が父親から会社を継いだ時、財務や営業的な体制がきちんとしておらず苦労しました。だからこそ、次の人に会社を継承するにしても、とんでもなくお金を残すわけではないけれども、財産や資産、営業的なことをきちんとした形で残してあげたいという思いが強くあります。今年も新しい船を作るなど、事業を拡大しますが、ローリスクを前提に良質なアセットを増やしていきたいと考えています。
私は若い頃、西ヨーロッパを中心に一人旅をし、また今は仕事の関係で海外に行く亊も多く、併せて30カ国以上の国を訪れた亊があります。その中で分かった亊は、我々の先人達が築き上げてきた日本や日本人に対する信頼です。我々はこの信頼をベースに円滑なビジネスが出来るという亊に感謝しなければならないという亊を若い皆さんにお伝えして最後とします。
取材担当者(石嵜渉)の感想
近藤社長の「覚悟を決めろ」「すぐ諦めるな」というアドバイスは、経営者としての30年の重みが込められています。特に、「経営は孤独である」という言葉と、次の世代に継承するために会社をきちんとした形で残したいという強い責任感は、社長の人間性を強く感じさせるものでした。私たちが今いる恵まれた環境に甘んじることなく、自分の人生の目標に対して、熱量と覚悟を持って行動していくことの重要性を改めて強く感じました。
