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【日東醸造】「変わらないことの価値」0.7%の世界で唯一無二を追求する4代目の挑戦

2026年10月15日

日東醸造株式会社

【日東醸造】「変わらないことの価値」0.7%の世界で唯一無二を追求する4代目の挑戦

◇企業紹介◇

日東醸造株式会社は、愛知県碧南市に本社を構える醸造メーカーです。大正時代に創業し、現社名となってから約80年以上の歴史を持ちます。全国の醤油生産量のわずか0.7%しかない「白醤油」を主力商品とし、さらにその白醤油を極限まで追求した独自商品「しろたまり」を製造。国内の和食料理人だけでなく、アメリカ・フランス・オーストラリアへの輸出も手がけ、日本の伝統調味料を世界へ届けています。今回は代表取締役社長・蜷川洋一氏に、学生団体GOATの取材担当がインタビュー。40年以上この業界で歩んできた蜷川社長が語る「変わらないことの価値」と「唯一無二への挑戦」、そして次世代への想いに迫りました。

「継ぐ気はなかった」自然と芽生えた醤油屋への想い

蜷川社長が日東醸造に入社したのは、決して「親から言われたから」ではありませんでした。「友人の醤油屋の息子たちに話を聞いていると、小さな頃から『お前は社長になるんだ』と言われ続けて育った人もいました。でも、私の父はただの一度もそういうことを言いませんでした」。大学生まで醤油屋を継ぐことなど考えたこともなく、様々な道を模索していたそうです。

しかし、就職活動を始めた時、子供の頃からの記憶が蘇ってきました。蜷川社長は工場の中に住んでいたのです。「物心ついてからずっと醤油の匂いのする環境で育ちました。中学生の頃、仕事が増えてきて邪魔になり、ようやく外に家を借りて出たんです。そこから初めて、醤油の匂いのしない普通の家で生活するようになりました」。

「いざ本気で仕事のことを考え出すと、やっぱり自分が社長になるのが一番自然なのかもしれないって、誰に言われたわけでもなくそう思いました。自分から『やらせてくれ』と言ったんです」。父親の勧めで、まずは名古屋の業務用酒屋で約2年間の修業を積みました。大きなホテルや居酒屋、バーなど、飲食業界の裏側を見る経験。「自分が作る醤油がどういうところでどんな風に使われているのか、そこにはどんな人たちがいるのかを知っておきたかった」という父親のアドバイスに従ったのです。

その後、自社に戻ってからは約1年かけて製造現場の全工程を経験。醤油の製造工程は多岐にわたり、原料処理から醸造、さらに出来上がった醤油を加工して麺つゆやタレを作る工程まで、一つ一つ実際に手を動かして学んでいきました。「同じ業界の会社で修業するのではなく、全く違う視点から飲食業界を見てから戻ってこい」という父親の言葉は、その後の経営者としての視野を大きく広げることになりました。

◾ 取材担当 外間の感想

「誰に言われたわけでもなく」という言葉が印象的でした。就活生の中には「親の会社だから」「家業があるから」と、どこか受動的に将来を決めてしまう人もいるかもしれません。でも蜷川社長は、幼少期からの環境を通じて自然と醤油屋への愛着を育み、自分の意志で継ぐことを選んだ。この「自分で選んだ」という感覚が、40年以上経った今も仕事への情熱を支えているのだと感じました。就活において「やりたいこと」が見つからないと悩む学生も多いですが、まずは様々な経験を通じて「自然と惹かれるもの」を見つけることの大切さを教えてもらいました。

40年で4000軒が1000軒に。激変する業界で「変わらないこと」を選んだ理由

醤油業界は、蜷川社長が入社した40年前から大きく変化してきました。「私がこの業界に入った頃、全国に醤油屋はざっくり4000軒ぐらいありました。それが現在は1000軒ぐらいです。40年で4000軒が1000軒に減ったということです」。この急激な減少の背景には、大手メーカーへの集約がありました。

地域に根差した小さな醤油屋が次々と姿を消していく現実がありました。

そんな中で日東醸造が生き残ってこられた理由を、蜷川社長は「変わらないことの価値」と表現します。「醤油という商品は、何百年の歴史の中でほぼ完成されているものです。自動車や携帯電話のように、どんどん進歩していくということが基本的に醤油にはないんです。そのことが日本の伝統的な食文化をずっと支えてきた要因の一つだろうと私は思っています」。

もちろん、製造設備の近代化や効率化、品質の安定化といった変化はあります。しかし、醤油醸造の基本は何百年も変わっていません。「変わっていくべきこともあるけれど、変わっていかないことにも価値がある。それは我々のような醸造業の場合、醸造の基本的な部分がまさにそうだろう」と蜷川社長は語ります。日本酒の蔵元も同様に、生産量は昔に比べて落ちていても、なくなることはない。醤油も同じで、どれだけ生産量が減ったとしても、なくなることはないという確信を持っているそうです。

◾ 取材担当 外間の感想

「変わらないことの価値」という言葉に、伝統産業ならではの強さを感じました。就活では「変革」「イノベーション」といった言葉がもてはやされがちですが、何百年も続いてきたものには続いてきた理由があるのだと気づかされます。特に印象的だったのは「自分の蔵が生き残っていけるかどうかはまた別問題」という冷静な分析です。業界全体への信頼と、自社の生存戦略は別物として考える。その客観的な視点が、4000軒が1000軒に減る中で生き残ってきた経営者の姿勢なのだと思いました。

醤油全体の0.7%。「白醤油」を極めた先に見えた「しろたまり」という唯一無二

日東醸造の主力商品は「白醤油」と呼ばれる、醤油全体のわずか0.7%しかない希少な調味料です。「普段皆さんが使っている醤油は圧倒的に濃口醤油と呼ばれるもので、醤油全体の80%ぐらいの生産量があります。それに比べて白醤油は5種類ある醤油の中で一番生産量が少ない」と蜷川社長は説明します。

白醤油の特徴は、ビールのような淡い色をしていること。見た目からは醤油とは思えませんが、この白醤油で料理を作ると、素材の色が全く損われずに美しく仕上がります。「主に和食の板前さん用の醤油としてずっと使われてきていて、一般消費者の方にはお馴染みが薄いものなんです」。若い人が「何それ?」と言うのは当然のことだと蜷川社長も認めます。

しかし、日東醸造はこの白醤油をさらに突き詰めました。「もっと白醤油らしい、美味しい白醤油を作ろうとして作り始めたのですが、結果として出来上がった白醤油は、醤油の定義から外れてしまって『醤油』と表示できないものになったんです。でも、その代わり私は唯一無二の、完全にうちのオリジナルのものができたという意味では誇りに思っています」。これが「しろたまり」と呼ばれる、日東醸造にしか作れない調味料の誕生でした。

蜷川社長は、この唯一無二の商品を持つことの意味を次のように語ります。「ローカルの小さな会社にとって、優秀な人材をたくさん集めることは至難の技です。企業規模が大きくなればなるほど人材をたくさん必要としてしまうので、そちらを目指すべきではない。でも、日東醸造でなければできないという仕事は絶対に必要で、大手他社さんと価格競争をしなければいけないような仕事では、とても将来の見込みは立たないんです」。

◾ 取材担当 外間の感想

「醤油の定義から外れてしまった」というエピソードに、挑戦の本質を見た気がしました。規格に収まることを目指すのではなく、本当に美味しいものを追求した結果、既存のカテゴリーを超えてしまった。それを「失敗」ではなく「唯一無二のオリジナル」と捉える発想の転換が素晴らしいと感じました。就活でも「自分の強みがない」と悩む学生は多いですが、既存の枠に自分を当てはめるのではなく、自分らしさを突き詰めた先に見えるものがあるのかもしれません。

ドイツ人シェフは「ポタージュスープに入れる」。世界が広げるしろたまりの可能性

日東醸造は現在、アメリカ・フランス・オーストラリアを中心に輸出を展開しています。まだ総売上の4%程度ですが、蜷川社長は「ものすごく将来性があると思っている」と期待を寄せます。

「今僕がやっているのは、伝統的に白醤油は和食の調味料としてプロの料理人さん向けという位置付けだったのを、その和食という枠をまず取っ払うこと。フレンチやイタリアンや中華にもこんな風に使えますよ、と。日本国内で使われるという枠も外して、海外でも日本の調味料として使うのではなく、フレンチやイタリアンの現地の調味料としてすごい可能性を感じているということです」。

実際に、海外との連携の中で驚くような発見もありました。「ドイツ人のシェフとオンラインで話していて、現に今うちのしろたまりを使ってくださっているフレンチのレストランなんですが、『何に使っているんですか?』と聞いたら、『僕はポタージュスープに入れるのが好きなんだ』と言うんです。普通、我々日本人の感覚として、醤油をポタージュスープに入れないじゃないですか。でもそのドイツ人シェフは『いや、これが一番いいんだよ』と言っていて」。

さらに、調味料としてではない全く新しい使い方の開発も進んでいます。「パンを焼く時にしろたまりをちょっと入れるんです。しろたまりは加熱殺菌工程がないので、酵素がまだ生きているんですね。この生きた酵素をパン種に加えることによって、普通に作ったパンの20%から30%ぐらい余計にパンが膨らむ。すごく柔らかくなって、水分が増えてもっちり感が増すとか、いろいろ面白いんです」。近所のパン屋さんでテストを重ね、副社長がアメリカ出張の際にも現地のディストリビューターに紹介してきたそうです。

「自分たちの作っている醤油の可能性って、自分たちは勝手にここからここまでと思っているかもしれないけれど、実はもっとめちゃくちゃ広がったりする。そういうことを発見するたびに、なんとなく仕事が面白くなりますね」。67歳を迎えてなお、新しい可能性に心躍らせる蜷川社長の姿がありました。

◾ 取材担当 外間の感想

「ポタージュスープに醤油を入れる」という発想は、日本人の私には絶対に出てこないものでした。自分たちが「当たり前」と思っていることが、外から見ると全く違う価値を持つことがある。これはビジネスだけでなく、就活でも言えることだと思います。自分では「大したことない」と思っている経験や特技が、別の視点から見ると大きな強みになることがある。蜷川社長が「発見するたびに仕事が面白くなる」と語る姿から、好奇心を持ち続けることの大切さを学びました。

学生へのメッセージ:理論だけでは理解できないことにどう向き合うか

「平均的に皆さん真面目です。それはすごくいいところだと思います。ただ、なんというか、想定外に弱いですね。理論的に考えるのは皆さん得意ですが、その理論だけでは理解できないということも現実には結構起きるわけで、そういった場合の対応が、柔軟さの弱さになるのかなと感じます」。

変わらないことに価値を見出しながらも、世界中のシェフとの対話から新しい可能性を発見し、パンの膨らみ方という全く予想外の方向に商品の活路を見出す。蜷川社長の40年以上のキャリアは、まさに「想定外」との向き合い方の連続だったのかもしれません。

小麦価格の高騰、為替の変動、関税政策の変化。「いろいろなことがどんどん持ち上がってくるたびに相場が動いて、いろんなことに影響が出てきて、なかなか厄介です。でも、実際に海外と連携していると可能性をすごく感じるので、面白いですよね」。想定外の出来事を「厄介だ」と認めながらも、「面白い」と言い切れる姿勢。それが、4000軒から1000軒に減った業界で生き残り続けてきた経営者の強さなのだと感じました。

◾ 取材担当 外間の感想

「想定外に弱い」という指摘は、就活生として耳が痛い言葉でした。面接対策で想定問答を完璧に準備しても、本番で想定外の質問が来るとパニックになる。それは仕事でも同じで、マニュアル通りにいかない場面は必ず来る。蜷川社長が「理論だけでは理解できないことも現実には起きる」と語る言葉から、社会に出る前に「想定外を楽しむ」マインドを持つことの大切さを学びました。醤油がポタージュスープに合うなんて、理論では絶対に出てこない。そういう発見を「面白い」と思える感性を、私も磨いていきたいと思います。