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【井上天極堂】「山の民」のDNAが紡ぐ156年の歴史と、天の恵みを届ける使命

2026年08月27日

株式会社井上天極堂

【井上天極堂】「山の民」のDNAが紡ぐ156年の歴史と、天の恵みを届ける使命

◇企業紹介◇

株式会社井上天極堂は、1870年(明治3年)創業、奈良県に本社を構える老舗食品メーカーです。「吉野本葛」を中心に、和食材・和菓子材料・野菜ペースト・葉っぱ類など、日本の伝統食材を全国の料理店・菓子店へ届けています。近年はオンラインショップや飲食店舗の展開、さらには自社農園「天極堂ファーム」での農業事業にも着手。156年の歴史を持ちながら、常に新しい挑戦を続ける企業です。今回は5代目代表取締役・井上社長に、学生団体GOATの石嵜がお話を伺いました。「山の民」としてのルーツから、これからの20年のビジョンまで、日本の食文化を守り続ける経営者の想いに迫ります。

「山の民」としてのルーツ——自然の恵みを集め、届けるネットワークの原点

井上天極堂のルーツは、「山の民」にあります。井上社長は自社の歴史についてこう語ります。「我々のルーツは山の民だと思ってます」。

かつて日本には、山で生計を立てる人々が数多く存在しました。吉野杉や吉野檜といった建築材を運ぶために川を利用し、その材木を結ぶために藤の蔓を使う。藤の蔓は筏を組むための素材となり、葛の根からは葛粉の原料が取れる。天極堂はこうした山の産物を集め、全国へ届けるネットワークを構築してきたのです。

「藤の蔓、葛の根、柏の葉っぱ、山桜の皮、萩……山で生活する人たちが集めたものを、商品にして全国に出荷する。これが天極堂のルーツなんです」と井上社長は説明します。

特に印象的なのは、ひいおじいさんの時代のエピソードです。「ひいおじいちゃんなんかが一声かけると、もういろんな産物がすぐ集まったって、僕は小さい時から聞かされてます」。この「山のネットワーク」こそが、156年続く天極堂の事業基盤となっています。

現在は吉野本葛を中心に、野菜ペースト、葉っぱ類など多岐にわたる商品を展開していますが、その根底にあるのは「自然の恵みを集め、届ける」という創業以来変わらぬ使命です。山から海へ、そして世界へ——天極堂のネットワークは時代とともに進化を続けています。

◾ 取材担当:石嵜の感想

「山の民」という言葉に、最初は少し驚きました。しかし話を聞くうちに、日本の食文化がいかに山や自然と密接に結びついてきたかを理解できました。ひいおじいさんが一声かければ産物が集まったというエピソードは、単なる昔話ではなく、156年続く事業の根幹を示しています。就活生として、企業の「ルーツ」を知ることの重要性を改めて感じました。どんな企業にも必ず原点があり、それを理解することで、その会社が大切にしている価値観が見えてくるのだと思います。

「乾物」に込められた知恵——日本食のアイデンティティを次世代へ

井上天極堂が大切にしているのは、「吉野本葛・天極堂」というブランドイメージです。井上社長は日本食の本質についてこう語ります。「日本の食材、みんな乾物なんですよ。乾物って言葉を最近は言われなくなったんですけども、保存食であったり、栄養食であったり、日光で干すことで味が出たり保存ができたり、一層旨味が増して美味しくなる。発酵と乾物ってのはね、やっぱり切っても切れない日本の食のアイデンティティじゃないかなと思ってるんです」。

この「乾物」という視点は、現代の私たちが忘れがちな日本食の知恵を思い出させてくれます。葛粉も、自然の風で乾かすことで長期保存が可能になり、独特の風味が生まれる。「そんなことを、我々は伝えていけたらなという風に思ってます。本物を。」という井上社長の言葉には、日本の食文化を次世代に伝える使命感が込められています。

井上社長は150周年を記念して、日本中の葛に関係のある場所を取材し、『葛の本』という本を制作しました。静岡県掛川の葛布職人、福岡県秋月の葛屋、福井県の熊川葛など、葛の歴史を辿る旅は、日本の食文化の奥深さを再発見する旅でもありました。

「日本の食って深いですよね。一つ一つがお米だけじゃなくて、粉にして、お団子作ったり、餅米もうるち米もお餅になったり大福になったり、いろんなお菓子になるじゃないですか。それを育てる人がいなかったら成り立たない」。食べることの背後にある、育てる人、作る人、届ける人への感謝——それが天極堂の「いただきます」の精神です。

◾ 取材担当:石嵜の感想

「乾物」という言葉を最後に聞いたのはいつだったか思い出せません。井上社長の話を聞いて、日本食の本質が「保存」と「発酵」にあることを初めて意識しました。私たちが当たり前のように食べている食材の多くが、先人たちの知恵の結晶なのだと気づかされました。就活生として、自分が働く業界の「本質」を理解することの大切さを学びました。表面的な情報だけでなく、その業界が社会にどんな価値を提供しているのかを深く考えることが重要だと感じます。

「天極堂ファーム」の挑戦——食料自給と社員の「やりがい」を同時に追求する

井上天極堂は昨年から「天極堂ファーム」という農業事業をスタートさせました。桜の葉っぱや桜の花を取るための桜を育てたり、よもぎ餅のためのよもぎを栽培したり、もちろん葛も、そしてお米も。井上社長は「めっちゃ面白いですよ、農業は」と目を輝かせます。

この挑戦の背景には、日本の食料自給率への危機感があります。「日本の自給率ね、先進国の中でも最低クラスって言われています」。

井上社長は具体例を挙げて説明します。「例えば卵あるじゃないですか。卵って鶏が生むじゃないですか。鶏の前はヒヨコじゃないですか。ヒヨコって80%輸入で、ヒヨコが食べる飼料、これも90%輸入です」。卵に限らず、肉も、様々な食材が輸入に依存している現実を、天極堂は自社の事業を通じて変えていこうとしています。

しかし、天極堂ファームには別の狙いもあります。それは社員の「やりがい」を生み出すことです。「やっぱり人生の中で仕事の割合ってほとんどになってくるので、そん中でやりがいであったり面白さであったり楽しさであったり、そんなことが叶えれる会社でありたいなってのは思ってまして。」と井上社長は語ります。田植えや収穫祭に全員が参加することで、食の原点に触れる機会を社員に提供しているのです。

◾ 取材担当:石嵜の感想

ヒヨコの80%が輸入、飼料の90%が輸入という数字には本当に驚きました。普段何気なく食べている卵の背後に、こんな現実があるとは知りませんでした。井上社長が農業事業を始めた理由が、単なる事業拡大ではなく、食料自給率への危機感と社員のやりがい創出という二つの目的を持っていることに感銘を受けました。就活生として、企業が社会課題と社員の幸せをどう両立させようとしているかを見ることの重要性を学びました。

学生へのメッセージ——「いただきます」の精神を忘れずに

取材の最後に、井上社長から就活生へのメッセージをいただきました。

井上社長が強調するのは、「誰かのために役に立つ」ことの大切さです。「学校卒業して社会人となって、その中で働いて、誰かのために役に立つ。それで初めてお金いただけるんだから」。この言葉は、就活生が仕事を選ぶ際の本質的な問いを投げかけています。

そして、日本の食文化を守り続けてきた経営者らしい言葉で締めくくられました。「だからこそ、生きてるのが、ちゃんと食べれてるのが、感謝しかないですよね。それが『いただきます』って言うことの在り方だと思います。」

156年の歴史を持つ天極堂が大切にしてきたのは、自然への感謝、作り手への感謝、そして届ける相手への感謝。「いただきます」という言葉に込められた日本人の精神を、仕事を通じて次世代に伝えていく——それが井上社長の、そして天極堂の使命なのです

◾ 取材担当:石嵜の感想

「いただきます」という言葉を、こんなに深く考えたことはありませんでした。井上社長の言葉を聞いて、毎日の食事が多くの人の努力と自然の恵みの上に成り立っていることを再認識しました。就活生として、「誰かのために役に立つ」という仕事の本質を忘れずに、企業選びをしていきたいと思います。今回の取材で、156年続く企業の経営者から直接お話を伺えたことは、私にとって大きな財産になりました。