◇企業紹介◇
阿部幸製菓株式会社は、新潟県小千谷市で創業し、1964年に法人化された老舗米菓メーカーです。業務用柿の種の生産量で日本一を誇り、全国のお菓子メーカーに原料を供給する「黒子」的存在として業界を支えています。近年は自社ブランド「柿の種のオイル漬け」や「かきたね」シリーズで新たな価値創造に挑戦し、さらにラーメン店や和菓子店など飲食事業へのM&Aも積極的に展開。「おコメと和の嗜好品メーカー」というビジョンのもと、日本の食文化を未来へ繋ぐ取り組みを続けています。今回は3代目代表取締役社長・阿部幸明氏に、学生団体GOATの石嵜がお話を伺いました。事業承継の経緯から、若者へのメッセージまで、若き経営者が語る「挑戦と変化」の哲学をお届けします。

父の一言で腑に落ちた家業の可能性
阿部社長は、幼少期から会社と工場を近くで見ながら育ちました。しかし、意外にも「お菓子を食べない、米菓にも興味がない、食に対してもあまり興味がない」という少年時代を過ごしていたといいます。当時の夢は、流行していた古着屋を経営すること。アメカジやヴィンテージに心を奪われ、「古着屋をやりたいんだ」と父親に告げた学生時代がありました。
その時、父親から返ってきた言葉が転機となります。「阿部幸製菓でも、米菓に限らずいろんな事業をやっている。古着屋だって、新しい事業として会社の中でできるんだぞ」。この一言に、阿部社長は「自分なりに腑に落ちた」といいます。家業を継ぐことは、自由を奪われることではなく、むしろ新しい挑戦の土台になる。そう気づいた瞬間でした。
「じゃあその中で新しい事業としてやりたければやればいいだろう」という父の言葉が、私の価値観を変えてくれました。
その後、阿部社長は東京の大学へ進学。父親から「これからはグローバルだ。英語ぐらい喋れなきゃダメだ」と言われ、イギリスへ1年間の語学留学を決意します。選んだ理由は「ブリティッシュイングリッシュ」への憧れと、スーツ文化の本場という歴史的背景。アパレル好きらしい視点での決断でした。そこから韓国の食品会社で1年間のインターンシップを経験し、東京の食品会社で約3年間勤務。2011年に阿部幸製菓へ入社し、2024年に代表取締役社長に就任しました。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「古着屋をやりたい」という夢を持つ息子に対して、「うちの会社でもできるんだよ」と返す父親の器の大きさに驚きました。多くの家業では「跡を継げ」という圧力が先行しがちですが、阿部家では「やりたいことを実現する場所」として会社を位置づけている。この発想の転換は、就活で「自分のやりたいこと」と「会社の方向性」の両立に悩む学生にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。家業や中小企業は、大企業にはない「自由度」を持っているという視点を、ぜひ持ってほしいと思いました。

業務用柿の種生産量で日本一。「黒子」だからこそ気づいた、自社ブランドの必要性
阿部幸製菓の強みは、業務用柿の種の生産量で日本一という圧倒的なポジションにあります。5kgや10kgのケースで柿の種を全国のお菓子メーカーに納め、それが各社の商品として店頭に並ぶ。いわば「柿の種業界の黒子」として、日本中の柿の種を支えているのです。
この地位を築いたのは、祖父の代からの技術革新でした。「柿の種を大量生産できる技術と機械を確立したのが当社です」と阿部社長は語ります。今では当たり前のように手頃な価格で柿の種が買えるのは、この技術革新があったからこそ。
しかし、黒子であることには課題もありました。「業務用では、お取引先のお客様に採用されないと商品が世に出ない。価格価値を決めるのも、最終的にはお客様です」。自分たちで価値を決められないというジレンマ。この課題と向き合う中で、阿部社長は自社ブランドの必要性に気づきます。
「業務用では日本一だけど、価値創造をしていかなければいけない。自社ブランドをしっかりやらなきゃいけないということにたどり着いたのです」
そこで生まれたのが「柿の種のオイル漬け」という革新的な商品。「柿の種を食卓へ」をキーワードに、ご飯の上に乗せる調味料として開発しました。おつまみではなく、食事のシーンで柿の種と触れ合う「タッチポイント」を増やす。お菓子の枠を超えた発想が、新たな市場を切り拓いています。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「黒子として業界を支える」という言葉に、BtoBビジネスの醍醐味と難しさを感じました。表には出ないけれど、なくてはならない存在。しかし、そこに甘んじず「自分たちで価値を決める」ために自社ブランドに挑戦する姿勢は、就活生にとっても学びになります。「今の仕事の課題は何か」「それをどう乗り越えるか」という視点は、面接で志望動機を語る際にも活きるはずです。

1g1円の常識を覆す。「かきたね」が証明した、パッケージの力と若者へのアプローチ
柿の種業界には、長年の「常識」がありました。「1g1円」という価格帯です。100gの商品が100円で売られるのが当たり前。しかし、阿部社長はここに挑戦します。
生まれたのが「かきたね」シリーズ。女性やおしゃれを気にする人たちをターゲットに、カバンからすっと取り出しても違和感のないデザインを追求しました。マットな質感のパッケージ、7種類のフレーバー、7色のカラーバリエーション。「柿の種ってこういうイメージだよね」という固定観念を覆す、スタイリッシュな商品に仕上げました。
結果、従来の「1g1円」を大きく上回る価格価値を生み出しました。「パッケージやイメージから価格価値を上げるという挑戦です」と阿部社長は語ります。
この挑戦の背景には、若年層へのアプローチという明確な戦略がありました。「柿の種や米菓の購買層は、比較的年代が上の人たちです。若い人たちにとっては、ポテトチップス、チョコレート、ビスケット、グミなど他のお菓子の方がマーケットとして大きい」。だからこそ、若者が「欲しい」と思えるデザインと体験を提供する必要があったのです。
「黒子的な存在でこのマーケットを支えている私たちだからこそ、商品を展開していくべき、ブランド価値を高めていくべきなのです」
SNSでの情報発信も、この戦略の一環です。「大手じゃないので、CMを打ったり大々的な広告費をかけられるわけではない。だからこそSNSは大きな手段です」。TikTokやInstagramを通じて、会社の楽しさや取り組みを発信し続けています。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「1g1円」という業界の常識を数字で聞いた時、その壁の高さを実感しました。そこを突破するためにデザインの力を使うという発想は、まさに若い感性があってこそ。私自身、阿部幸製菓のブランドサイトを初めて見た時「黒調でかっこいい」と感じましたが、それは「若者に届けたい」という明確な意図があったからこそのデザインだったのだと理解できました。

M&Aで社長を30人作る。「おコメと和の嗜好品メーカー」というビジョンの先
阿部幸製菓グループは現在、米菓だけでなく多角的な事業を展開しています。和菓子店、ベトナム料理のフォー、ステーキ店、スイーツ事業等々。一見すると「なぜお菓子メーカーが?」と思える事業ラインナップです。
しかし、全ては1つのビジョンに繋がっています。「私たちは『おコメと和の嗜好品メーカー』をビジョンとして掲げています。」このビジョンを達成するために、承継型M&Aを経営戦略の柱に据えているのです。
「私たちの商品や事業を通じて、日本が抱える食の課題を1つでも解決したい。食料自給率の低さ、世界での食料安全保障の問題。新潟の食、日本の食を次の未来に繋げていくことが私たちの役割です」
そして、阿部社長が描く最も野心的な構想があります。「グループ会社の数だけ社員達を社長にしたい」。グループ会社の社長には、できれば30歳くらいの人材に任せたいと考えています。
「阿部幸製菓やグループで働くと社長になれるんだ、というワクワクや楽しさを感じてもらいたい。そういうやりがいを、働いてくれる人たちに提供していきたいのです」
実際、去年からグループ会社の社長交代を進め、次世代への権限移譲を加速させています。「漠然と社長になりたい」「こんなことをやってみたい」という若者の夢を、会社として実現できる環境を作る。それが阿部社長の描く未来像です。
◾ 取材担当:石嵜の感想
「30歳で社長になれる会社」という言葉に、純粋にワクワクしました。独立・起業にはリスクがありますが、グループ会社の社長という形であれば、リソースを活用しながら経営者としての挑戦ができる。これは就活生にとって非常に魅力的なキャリアパスではないでしょうか。「将来社長になりたい」と思っている学生は、こういった「社長を育てる会社」という視点で企業を探してみることをお勧めします。

学生へのメッセージ:どうせ1度の人生なら、楽しく・ポジティブに努力しよう
最後に、阿部社長から就活生へのメッセージを伺いました。
「まず、世界は見た方がいい。海外に行くチャンスがあるなら、旅行でも何でもいいので世界に触れてください。海外での経験が、私の価値観をすごく変えてくれました」
そして、働き方について。阿部社長自身、ハラスメントを受けながらも、朝から日付が変わるまで働くという経験をしてきました。だからこそ、今の時代にハラスメントや長時間労働は絶対にダメだと言い切ります。しかし、同時にこう続けます。
「働きやすくすることと、価値を高める生産性の高い仕事をすることは違います。そこを履き違えない方がいい。なんだかんだ言って、努力した人が結果を出しているのです」
「せっかく1度の人生なんだから、楽しくやろうよ。どうせ働く必要があるなら、楽しく、そして欲にもちゃんと向き合って、貪欲であってほしい」
いい車に乗りたい、いい洋服を着たい、美味しいご飯を食べたい。そういった欲は人間にとって大事なこと。そして、ポジティブシンキングの重要性も強調します。「マイナスに考えると結果もマイナスになる。常にポジティブでいることは大変ですが、結果が間違いなく変わってきた実感があります」
最後に、阿部社長はこう締めくくりました。「今の若い人たちが次の未来を支えていく。だからこそ応援したいし、うちの会社では社員のみんながやりたいことには基本NOと言わない。自発的にやろう、と伝えています」
◾ 取材担当:石嵜の感想
「努力した人は結果が出ている」という言葉は、シンプルですが重みがありました。阿部社長自身が、イギリス留学、韓国インターン、他社での修行、そして家業での挑戦と、常に努力を積み重ねてきたからこそ言える言葉です。「働きやすさ」と「生産性の高い仕事」の違いを指摘する視点は、これから社会に出る私たちが持つべき視座だと感じました。就活では「条件」ばかりを見がちですが、「そこで自分は何を成し遂げられるか」という視点を持つことの大切さを、改めて学ばせていただきました。